今回のインタビューは、京都の和紙と和雑貨の店の楽紙舘の若い美人女性店長の太田こよみさんです。最初にインタビューをお願いしてから約半年、去年の12月に、ついに実現しました。       

 

太田さんが働いておられる楽紙舘とは、私ども「和紙はお好き?」も、お世話になっています。太田さんは30代前半、京都の有名な和紙と和雑貨のお店、楽紙舘の店長をやっておられます。女性の社会進出は、日本では、なかなか進んでいないのが現実ですが、太田さんは、輝く日本の女性の代表選手の一人です。

 

その楽紙舘のお店は、京都文化博物館の入っているビルの高倉通側の一階に面しています。三条通りにも近く、まさに、京都の商業地の中心界隈です。

(楽紙舘の外観、京都文化博物館の入っている一階の北東側のコーナーにある。入口に近いところに和雑貨、奥には、日本中の和紙を販売しています。)

 

 

“大学を卒業して10年。今、仕事が楽しいです。”

 

大学は、国文科で古文、特に源氏物語が卒論でした。美大の卒業ではないし、こういう風なキャリアになるとは思っていませんでした。楽紙舘の和雑貨のメインの商品に、源氏物語をあしらった物がいくつもあります。そういう意味で、源氏物語を専攻していたのが、雇ってもらえる鍵だったのかもしれません。当時から今でも、楽紙舘の商品は、文学的なものを入れたものを作りたいというのが、舘主の方針でした。

楽紙舘の一筆箋は、源氏物語絵巻をデザインしている楽紙舘の旗艦商品)

 

楽紙舘は、現在、12人で仕事をしています。仕事は、季節ごとに変えるディスプレイ、スタッフのスケジュール管理、仕入れ、事務的な仕事、展示販売での出張、そして何よりも、お店での接客の仕事があります。働きやすさという点と、一緒に働いているみんなが紙を好きという点で、良い職場だと思います。私よりも年上の人で、紙のことにすごく詳しい人もいます。みんな長く勤めてくれています。大変なこともたくさんありますが、今の仕事は楽しいです。

(お店の中の太田さん)

 

今は、スペースの関係でやっていませんけれど、前は和紙の手漉き体験なんかもやっていました。紙漉き体験では、小学校の卒業証書に使うものを作ってもらったりしていました。

 

楽紙舘の本社は、上村紙株式会社という会社ですが、そこの上の人たちも、私たちがやりたい事をやっていいという雰囲気があります。自分の好きなことをやらせてもらえて、周りの人との関係も良いし、恵まれていると思っています。やりがいがあるので、こんなに長く続けることができたのだと思います。

(忙しい中、昼食を取りながらのインタビュー)

 

 

“会社に入った頃には、和紙のことは全く知りませんでした。”

 

 

楽紙舘の前会長の上村芳蔵は、和紙總鑑という全12巻の和紙の辞典を作る委員会での仕事に携わっていました。生産者一人ひとりを調べて、どんな紙を作っているかまで書いてあります。実際にどんな紙なのか、実物も入れています。今は、後継者がいなくなった漉き場の紙も掲載されています。これは、英語にも翻訳してあって、パリのルーブル美術館や、大英博物館には置いてあります。

 

そういう会社の性格もあるのかもしれませんが、楽紙舘では、日本全県各地の手漉き和紙の生産者とお付き合いさせていただいております。ただ、紙漉き一本で生計が立たなくてなっているところも多いと思います。それで、後継者がいなくなっているところも多いです。

 

今の社長をはじめ、特に、昨年99歳になった前会長は、常に新しいものに挑戦していると思います。私たちに、インテリアで和紙を使うということを、もうずっと前から、考えさせています。私が、入社したのが10年前ですから、その頃、既に、80歳代後半でした。

 

最近は、紙の原料になる楮を作る人が減っていて、値段が高くなってきています。機械漉きの和紙はきれいでお値段的には安いけれど、お客さんには手漉き和紙の持っている温かみをも知ってもらいたいです。

(桜柄の和紙には、春を伝える温かみがある)

 

最近、越前に行ったら、雁皮(がんぴ、和紙の原料となる植物で、楮(こうぞ)、三椏(みつまた)と並んで、よく使われる原料)を、栽培できるようになったとおっしゃっておられました。雁皮は、もともと、野生のものしかなく、さらに、成長が遅いのです。一年で育つようなものではないのです。だから、数が取れない。一方、雁皮を使った和紙は、滲みがあまりでなくて、光沢があるので、きれいです。かな文字等の字を書く際に使われています。三椏は、精巧な印刷にも耐えることができます。日本のお札にも使われるぐらいです。そういう特徴があります。

 

又、お客様とお話する中で、だんだんと和紙について勉強させていただくことができました。

(和紙には、色々な種類がある。その素材によって、光沢、肌触り、厚み、見た目、全部違ってくる。その触感は、洋紙のつるっとしたラッピングペーパーとは、全く違うものである。)

 

確かに、太田さんは、商品や和紙について詳しい。インタビューを始める前に、何種類かの和紙を買うので、それぞれの紙の性質について、教えていただいた。どんどん、新しい質問をしても、しっかりと答えられていく。 紙の性格や色合いについても、的確だった。又、今回、お店を訪れる数日前に、土佐の典具帖紙を見たいと電話で聞いた時、たまたまその日は太田さんが休みの日だったが、電話に出られた店員の方に伺ったところ、その人が詳しく教えて下さった。更に、数日後にお店を訪れた時に、自分が典具帖紙について質問していたことが、太田さんにしっかりと伝わっていた。電話で、「和紙はお好き?」の橋本ですと、最初に挨拶しただけだったのに、これには驚かされた。素晴らしいチームプレーだった。

 

 

“普段使いで、生活の中に和紙を使うことを提案しています。“

 

私たちが心がけているのは、紙の使い方を提案していくことです。その中では、特に、インテリアで使うのが、入りやすい切り口だと思います。今まで、和紙を使ったことが無い人は、この紙ってどういう風に使えばいいのって、質問されることがあるんです。そういう方に、灯りに和紙を使うのを奨めるとか、普段使いで温もりを感じてもらえるようにディスプレイを心がけています。

(緑色の和紙を取り混ぜて、インテリアのアイデアが浮かぶ。左から、土佐板締め紙、阿波雪花染紙、オリジナル雲龍板締め紙、黒谷型染紙、楮もみ金砂子)

 

今は、デジタルの時代ですよね。そんな今だからこそ、実際の紙の手紙を渡せば、喜んでもらえると思っています。誕生日のカードや、お礼状とか。例えば、文香なんかも、手紙を開けた時に、手紙に添えて入っていれば、受け取った相手の感じる印象は、デジタルでは絶対に味わえないものです。自分でも、時々、紙を使ってカードを作ったりします。この事について、太田さんは、自信を持って話をされていました。

 

 

(文香は、手紙の中に一つ入れておくと、受け取られた方が開封した時に、香りがする。生活に潤いを感じさせる商品で、わずか280円で五種類のカラーが入っている。)

右矢印この商品は、こちらからお求めすることができます。

 

 

(源氏物語をあしらった一筆箋は、楽紙舘の旗艦商品。ちょっとしたお礼を一筆箋に記して、文香を忍ばせて差し出せば、貴方の株が上がることは間違いないです。)

 

昔は、紙を買う方は、全紙(90cm X 60cm)でお買い求めされることが多かったです。しかし、最近の需要家は、もっとサイズの小さい紙、例えばA4ぐらいを、何種類も買っていく方が増えています。和紙を使う人といえば、版画、切り絵、ちぎり絵、和紙人形、折り紙と用途は様々ですが、それぞれのニーズにあった物を提供できるようにしていきたいんです。だから、全紙でなくても良いのです。

 

 

“私たちの仕事は、漉き場と消費者の間に立っていると思っています。“

 

例えば、ディスプレイを変えたら、売れ行きが違ってくることが良くあるのです。それと、季節性については、とても気を使っています。今の季節(暮れ)だったら、赤とか金を使ったようなものが良く売れます。ハロウィンの頃には、それに合った商品を出して、見せるようにしています。

(金小紋かんはた)

 

消費者の方は、島根地方の漉き場には、普段からは行きにくいと思います。しかし、楽紙舘は、京都の市内の交通の便のいい所にあるので、うちにいらっしゃれば、それが手に入ります。うちにいらしてくれれば、土佐紙も、美濃も、越前とも、日本各地の和紙を、比べることができます。

 

(楽紙舘の商品:島根県の和紙メーカーの作った草木染めの箸置き)

 

外人の方も、お店にはよくいらっしゃいます。和紙について、大変よく研究されていて、京都にいらして楽紙舘をめがけて来られる方もいます。比較的、ヨーロッパの方が多いように感じます。そういう方たちも、日本全国の漉き場に行くわけにはいかないから、私たちが間に入っているわけです。


(楽紙舘のお店の棚には、日本全県から集めた色々な和紙が揃っている。)

 

 

“インタビューアーの独り言”

 

インタビューを受けてくださった太田さんに、大変感謝しています

 

当ブログでは、クリエーター、和紙や和雑貨の生産にたずさわる人々や、日本文化の承継者の方々を中心にしてきましたが、その視点だけでは何か欠けていると、常に感じていました。クリエーターだけに焦点を当てていると、和紙、和雑貨、日本文化を最終需要家に販売している多くの人々がいるのを忘れがち。そういう意味で、実際に、クリエーターや消費者の仲介をしている今回の太田さんのインタビューは、絶対に欠かせないピースです。

 

太田さんと商売の話をしていると、その知識の深さに圧倒されます。このインタビューでも、雁皮、三椏などの和紙の説明もさることながら、一番びっくりしたのは、どうやれば、需要を掘り起こすことができるかを、常日頃から、深く考えていることでした。まさに、現場の声を聞かせてくれました。30代前半の年齢で、そういう意識を持っておられることに、びっくり、いや、素直に感激しました。それだからこそ、楽紙舘でも、太田さんを店長に任せているのだろうと想像します。

 

クリエーターだけでは、あくまで自分が作りたい物を創ってしまう。しかし、販売をする人は、その商品の良さをどういう風に、お客様に伝えていくかを、必死に考えて実行しているのです。今回、太田さんが語ってくださったことは、和紙の成長は、インテリアに使うこと、そして、普段使いをお客様に届けるということでした。こういう視点が、生産者やクリエーターにも、必要なのではないでしょうか。そして、それは、和紙や和雑貨だけではないはずです。時代から、取り残され始めている古典芸能や、コスト面でなかなか勝てない商品を販売している店などにも通じるものがあると思います。

 

この記事が、この業界に入ってみたいと思っている女性や若い人たちにとっても、役立つ記事になればと思っています。とにかく、今の仕事が楽しいと自信を持っている太田さんの言葉は参考になると思います。