能舞台こそが異空間

 

能の舞台というのは、今でいうスピリチュアルな世界です。お正月だと上方に「しめ縄」を張ったりします。「結界」であるという意識の表れです。能の舞台に上がるには、必ず足袋を履かなくてはいけません。能の舞台の四本柱は、ただ単に屋根を支えるためでなくて、異質な世界、客席からは立ち入れない世界であることを区別するためにあるのです。

(能舞台は全て、四本の柱で囲まれている。)

 

五色の幕は、一説には陰陽五行からきていると言われています。「木火土金水」です。あの五色の幕の向こうにある異次元の世界から、シテ(主役)は橋を渡ってきます。長い花道のような廊下は、「橋掛り(はしがかり)」といいます。古い能では、舞台から、五色の幕に向かって、少し傾斜しています。黄泉の国といいますか、異界を表しているのです。「能面」という仮面をつけているのは人間ではないものを表しています。能が表現しているのは、人間ではない異次元の世界なのです。

(久良岐能舞台の橋掛り)

 

ところで、余談になりますが、五色の幕の裏には、「鏡の間」という部屋があって、シテはそこで精神集中します。「鏡の間」には巨大な三面鏡があります。その前に座れるのは能のシテだけです。その鏡の前で、役を憑依させるのです。昔は、家元というリーダーだけがシテをやることになっていました。シテが舞台に出る時は、周りの能楽師は正座して送り出します。又、シテが戻ってくる時は後見が平伏して迎えます。しかし、現代では、経験の少ない若手でも、シテをやることがあります。そんな場合でも、全員、家元も長老も、正座して送り出し、そして出迎えます。能におけるシテというのは、そういう特別な存在なのです。

 

能舞台は、正式には北向きに建てられています。神様が北に存在していて、南を向いていらっしゃる、という考え方です。また、神様は目の前ではなく、正面席のお客さんの後ろのほう、にいてご覧になられているという考え方もあります。中世の時代になると、足利義満以降の天下人は、能を、権威付けに使っていたと言われています。

 

豊臣秀吉や徳川家康など以降の将軍や大名たちは、能舞台正面の後ろに鎮座して能を見物していました。特に秀吉は天下人になり、自ら能のシテを勤めてたりして、能を権威付けに利用したと言われています。

 

第一編は、ここまでです。第二編では、経験のない人が能を見るにはどうしたら良いのか、そして、能を習うにはどうすれば良いのかを聞いてみました。第二篇は、一週間後にリリースします。