実は、私はチェロを習っている。何となく、何気なく、ずっと口にしてこなかった。なぜなら、習っている というと 弾いて になるから。人に聞かせるほどの力量じゃないし発表会には、いつも妻だけがいる。
習っている話になると、必ず来る質問に「何年になるの?」がある。年数は関係ないのである。月一度のレッスンで出張まみれで練習も疎かになる。年数など、何の役にも立たないレベルである。46歳くらいから始めた「お父さんの習い事」である。ある意味、惚け防止。にしても芸の道は厳しいと常々思う。日々の鍛錬の賜物だが、日々が日常で忙殺される。疲れた体、疲れた脳では弾けない。
そんな時、
ずっと練習してきた曲を使ってシンギングボウルとコラボしようとした。問題なくできると思っていた。チェロに合わせてボウルを打ち鳴らしてもらうのだが、練習の時はいい感じだった。曲は暗譜もしていたし、何ヶ月も弾いてきた曲で慣れていた。本当にできると思っていたんだ。
本番が始まった。
直前から動悸が激しくなる。
やばい!
これは やばいぞ!
鼓動が自分で聞こえるほどだ。
弾き始めると弓を持つ右手が震えている。
弓が弦を捉えきれず音が出ない。
弦を押さえる左手が動かない。
指もちゃんと開かない。
ずれる音程。
かすれる音。
肘が壁に当たるなど位置取りも悪い。
弓の張りも弱かった。
何たる準備不足。
気が回らなかったのだ。
四苦八苦している内に、、、
なんと、楽譜が頭から吹き飛ぶ。
今どこだ?
復帰出来ないから途中を飛ばす。
後悔しながら弾き続ける。
私の講演会は数えていないが800回くらいはしていると思う。若かりし頃はほぼ赤面対人恐怖症だった私が、人前で喋れるようになった。まあ、今でも懇親会では壁のツタと化しているが。講演途中でスライドが動かなくなったり、PCがフリーズしたり、入れたはずのファイフがないとか、様々な問題に直面してきた。講演前に緊張感はあれど、今では大きな失敗は無い。人前に立つことに恐れは無いと思っていた。
なのに
田中史上で最高の緊張度MAXを記録したのだ トラウマとなるレベルの失態である。終了後は立てなかった。あらゆる慰めの言葉は無意味だった。著しい脱力感、目眩、ふらつき。全力100mを10本やったかのような感じだ。穴があったら入りたい。消えて無くなりたい。そんな思いであった。
師匠は言った
場数だよ
そうなのだ。圧倒的に場数が違う。どうしても目の前の人がジャガイモやカボチャにはならない。場数により何かが身につくのだ。本番の重みを体感する場がチェロの場合は圧倒的に少ない。地元の講演会にチェロを持参して、講演終了後に人前で弾く練習でもしようかしら。。。耳栓持参で。