ラヴェルが味わったもの | ホメオパシーOMOION

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作曲家のモーリス・ラヴェルは、襲いくる砲弾や、狙撃手、毒ガス、そして機関銃の雨をかいくぐりながら前線に物資を届けるべく、穴だらけの道を疾走した。冬は道路が凍結し、春の雨は戦場を沼地に変えた。長時間足を水に浸けたままの兵士たち。3倍にも膨れ上がった足は壊死を起こし、結果として足を失ったものも多くいた。不毛の大地にちりばめられた死体を糧にして、犬ほどの大きさに育ったネズミが徘徊していた。野外に掘られた便所が放つ悪臭からも、死体から立ちのぼる腐敗臭からも、逃れようはなかった。ラヴェルは風雨に晒され、凍傷にに悩み、赤痢に耐えた。絶え間ない戦場の轟音により、稀に静寂が訪れても耳鳴りはやまなかった。

ある晴れた朝、ラヴェルはトラックを走らせていた。両脇に砲撃で立ち枯れた木木が並ぶ、爆撃で死に絶えたような市中を抜けて行った。冷気を含んだ澄んだ空気を通して、遠くに廃墟と化した城が見えた。城の中に入ったラヴェルは、奇跡的に無傷で残されているエラール式のピアノを見つけた。ラヴェルはピアノの前に座ると、ショパンを引いた。自分を取り巻いていた恐怖は、あっという間に消え去った。ピアノを弾きながらラヴェルは果てしなく高揚した気分に身を任せた。時間も場所も忘れて音楽に没頭した。ラヴェルは後にこのときを、人生でこれ以上も無い最高の瞬間だったと回想している。」ロッド・ジェドキンス

生と死のこれ以上ない出会いに、ある種の悟りを経験することがあります。彼は死を乗り越えて一瞬の永遠を味わう「至高体験」をしました。