前回のブログに引き続き、知人の佐藤さん(仮名)と選挙制度について語り合った対話録を記しました。ぜひ、読んでみてください。
(私の実体験に基づいておりますが、一部フィクションを含んでいます。)
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 △大倉:市議会議員選挙で、選挙費用の法的上限は500万円ほどあります。厳密に言うと複雑な計算式で上限を定めてますが、いずれにしてもこれは多すぎで、引き下げるべきだと私は考えています。市議会議員選挙ですと、せいぜい200万円かと。
 
 ▽知人:上限ですか。だけど、何にお金を使うかは、候補者の自由なのかと。法律で上限を定めて個人のお金の使い道を規制するのは、ダメのような。
 
 △大倉:確かに、映画制作や芸術ならば、お金の使い道を規制してはいけませんよね。あるいは、お金持ちが高級車を買おうが、大粒ダイヤの指輪をはめようが、それは自由です。しかし、選挙だと話が違ってくると、私は思います。
 
 ▽知人:何が違うのですか?選挙だろうが何だろうが、お金の使い道を法律が規制するのは、自由の侵害のような。
 
 △大倉:例えば、有権者に向かって「1万円あげるから私に投票してね」とお金を差し出すのは、どうなのでしょうか。
 
 ▽知人:ウーン、それが違法行為なのは知ってるけど、そんな法律は無くても良いと思う。立候補者は一票を得る、有権者は1万円を得る。それで両者が合意しているから、別に良いのかと。
 
 △大倉:それだけで済めば、まだ傷は浅いです。しかし、この取引を合法化したら、連鎖的に別の問題が次々と起こります。
 
 ▽知人:それは何ですか?
 
 △大倉:他の候補者は、2万円を差し出してくるのかもしれません。更に別の候補者は、10万円を差し出してくるのかもしれません。すると、公職選挙はマネーゲームになってしまいます。
 
 ▽知人:それがそんなに問題なのかな?マネーゲームは、よくあることなのかと。選挙でも、ある程度はマネーゲームを適用しても良いんじゃないかな。
 
 △大倉:被選挙権の法的要件は、国籍と年齢と犯罪歴くらいであり、基本的に誰でも立候補の自由が保障されています。しかし、選挙がマネーゲーム化してしまえば、立候補の要件に経済力が必然的に加わって来ます。何故ならば、有権者を振り向かせるには、他の候補者よりも多くのお金を差し出さなければいけませんから。これは公平な選挙どころか、経済力による差別ではないでしょうか。
 
 ▽知人:いやいや、差別も何も、これは資本主義だよ。経済力は立派な能力であり、それで得票力を強化することも自由な選挙なのかと。
 
 △大倉:資本主義ですか。もっともな意見かもしれませんね。だから、現状はまだ許容範囲のような気もしています。しかし、行き過ぎた資本主義は民主主義と対立するのかと、私は考えています。
 
 ▽知人:大倉さんは、これから選挙が悪化するかもしれないと考えているのですか?
 
 △大倉:はい、これまでの選挙を見てみると、選挙の質が悪化していくような気配を感じています。
 
 ▽知人:それは何ですか?
 
 △大倉:やはり、行き過ぎた資本主義です。選挙にマネーゲームを導入するのならば、制度が変わって、株券みたいに投票券1枚を1万円で販売とかも起こり得ます。これで良いのでしょうか?私は、今の選挙の一番良いところは、一人一票の原則がしっかりしていて、有権者全員が対等に意思表示できることだと思っています。これが民主政治なのかと。
 
 ▽知人:確かに、お金で投票券を買うと、民主主義が崩れると思う。一人一票の方が、日本の選挙って感じがします。
 
 △大倉:一人一票は選挙権の話ですけど、この考え方を被選挙権にも当てはめて欲しいです。一人200万円まで、これを全立候補者対等の条件とし、この予算内で有権者にアピールするんです。「たった200万円ではアピールできない」「選挙に出るには1千万円が必要だ」というのは、おかしな考え方だと思う。
 
 ▽知人:だけど、多くの有権者に分かりやすくアピールするには、ある程度お金は必要じゃないかな。有権者も忙しいし、候補者には短時間で分かりやすくアピールする工夫をして欲しい。
 
 △大倉:それはその通りだけど、今の選挙はお金がかかりすぎています。候補者の負担だけならば、有権者からすれば他人事なのでしょうけど。しかし、税負担もあり、他人事とはいえないはずです。
 
 ▽知人:選挙にかかるお金を安くする方法がありますか?
 
 △大倉:はい、あると思います。
 
 ▽知人:例えば?
 
 △大倉:全面的にインターネットを使うのです。投票もインターネット、ポスターも、掲示板の数を半分にします。現状だと選挙ポスターはダウンロード出来ませんが、これは変な話で、ダウンロードできるようにすれば良いんです。コストは殆どかからないし。これだけでも、ずいぶん節約になると思いませんか?有権者への情報提供機会も損なわれないと思う。
 
 ▽知人:インターネットが使えない人は、どうするの?
 
 △大倉:そういう人も居るでしょう。だから、配慮はします。選挙権は誰にでも対等ですから。しかし、そういう人は数少ないと想定できて、配慮してもそのコストは少なく済むものと思われます。大多数の人はインターネットが使えて、そこで情報を入手し、投票し、自動集計の対象になって大幅なコストカットが見込めるかと。
 
 ▽知人:そんな所に、お金がかかってるんですね。
 
 △大倉:莫大なお金がかかっています。掲示板の設置、投票所の設営、明け方までやる開票作業、これは全て税負担です。それから、ポスターとビラの印刷費、街宣車のレンタル費、選挙ハガキも殆どが税負担です。更に、一定数の国会議員が居る政党の運営費も税負担です。
 
 ▽知人:えっ?政党の運営費も税負担なのですか?
 
 △大倉:はい。国会議員数や国政選挙の得票数に応じて、政党への支給額が変わります。年間300億円以上の税出費です。
 
 ▽知人:全て計算すると、総額は凄そうですね。
 
 △大倉:こんなことにお金かけるのなら、有権者が能動的にインターネットを使った方が、お金の節約になりますよ。有権者が政治に関心を持って、政党のホームページにアクセスし、投票率が上がれば、一人当たり年に何万円か減税できるのかもしれませんね。
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知人との対談は、ここまでです。選挙にかけるお金のあり方には、正解がありません。だからこそ、民意を示すことで変えていけるのではないでしょうか。
 
神奈川県本部 情報分析部長 大倉千和