インド仏跡巡礼(30)ブッダガヤ「マハーボデ寺院」② | 創業280年★京都の石屋イシモの伝言

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◆京都の石屋 石茂 芳村石材店◆部録/石のセレナーデ
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大塔を見上げながら何枚もシャッターを切る。
ドピーカンの空を背景に、ド迫力の塔が、画面一杯に迫る。

頂上辺りを見ると、ストゥーパの傘蓋(さんがい)のようである。
また表面は全体に、美しい幾何学のパターン彫刻が施されている。

  

所々に彫られた、半肉彫りの仏像も、優雅な姿で素晴らしい。

12世紀の、仏教が密教的な色彩を強めた頃の仏像が多いらしく、
できれば一日、様々な石彫刻をじっくり見たいが、そうもいかない。

東京の通勤ラッシュなみの混雑で、ボヤっとしてたら仲間と逸れる。

バタバタと暗い堂内に入り、金の“降魔成道”姿の仏像をチラ見し、
即、外に押しだされ、例のブッダが悟られた“菩提樹”へ移動する。

 

塔を時計周りに歩くと、側面の壁一杯、仰ぎ見る高さに石仏が並ぶ。
石仏は夫々、左右の石柱に挟まれた御堂の中で、鎮座されている。

細かな半肉彫りの石仏は皆、巡拝者によって丁寧に金箔が貼られ、
首からは、オレンジ、黄、白の花を通した、レイが掛けられている。

 

その石仏の前で多くの人々が、立っては座り、膝と額を地面につけ
両手の平を上にあげる、五体投地を繰り返し、祈りを捧げていた.

                         ◆

参拝の列は途切れることなく続き、さらに、その流れを囲むように
チベット僧と思われる集団が座り、経本を広げてお経を唱えている。

 

人混みに揉まれ、大塔の裏へ進むと、中央に石柵で囲まれた大樹
が現れ、その周囲をさらに多くの人々が座り、祈りを捧げていた。

 


大樹は伸びやかに枝を伸ばし、ぐるりと三方から響く、祈りの声を、 
聞き入れるかのように、サラサラ、陽光に葉を輝かせ揺れている。

この大樹こそ、釈尊(ゴーダマ・シッダルータ)が、瞑想して“悟り”
を開いた菩提樹である。と、言いたいが、実は、当時の樹ではない。

初代の樹は、6世紀初めに起こった、廃仏の戦火の中で消失し、
この樹は1880年・ブッダガヤ復興工事の時に、移植されたものだ。

菩提樹は生命力が強く、挿し木でも他の場所に育つと云う。

 

アショカ王の時代、仏教をスリランカに広める為、初代・菩提樹から
移植されて、新たな場所に、2代目が誕生した。

その菩提樹は、最古の移植された樹として、残っているらしいが、
今、ブッダガヤに立つのは、その2代目から、さらに別れ育った樹で、
正に、菩提樹界の3代目“ソウル・ブラザーズ”なのである。※

 

ところで、菩提樹の豊かな枝葉の下に、置かれた「金剛宝座」だが、
ここで釈尊が瞑想して、悟りを開いたと云われるが、石の台は実際は、
紀元前2、3世紀に造られたものである。

この宝座の周りには、高い石囲いがされて、鍵のかけられた門に、
門番まで立っている。が、以前は、ここまで物々しくは無かったようだ。

何でも、日本の新興宗教で、幾つも、大きな事件をおこして拘留中の、
あの尊師がここに来て、宝座によじ登り、引き摺り降ろされると云う
ハプニングがあってから、用心して、造られたらしい。

なんとも残念で、恥ずかしい話である。

この後、我々は、釈尊(ブッダ)が沐浴をしたとされる、蓮華の池を見る。

大きな人造の池で、蓮華の咲く頃は素晴らしいようだが、今はただの
四角い水溜りだ。普段は洗濯場でもあり、水も綺麗でないらしい。

 

中央に、釈尊が悟りを開いた後、7日間の禅定をされた時に、暴風が
吹き続けていたのを守ったとされる、ムチリンダ竜王と釈尊(ブッダ)
の像が飾られていた。なんだか、テーマパークのようである。

その後、ぐるりと大塔を大きく外周りして、最初のゲートまで戻り、
かくして、仏教最高の聖地とされる、「ブッダガヤ」の見学は終った。

                        ◆

だが、自分としては、ブッダガヤと菩提樹について、勝手に抱いていた
イメージがあり、それと異なっていた為か、少し違和感が残った。

今まで見てきた大自然の中の聖地に比べ、街の真中にあった為か?
世界遺産とはいえ、あまりに、整備され過ぎている為か?

いや、やはり、釈尊が菩提樹の下で、悟りを開いた瞬間のイメージが
手塚治虫の漫画「ブッダ」で創られてしまった。からかも、しれない。

あの作品は過去、二度、熟読して、インドに来る直前もおさらいしてる。
手塚ワールドの強烈な副作用が、ここに来て、現れてしまったようだ。

良くも悪しくも、漫画で育った自分としては、如何ともしがたい事で、
とりあえず、未消化で、混乱した、アタマをふりふり、ゲートを出た。

  

インド仏跡巡礼(30)へ、続く
※菩提樹→実は4代目とか6代目とか諸説あり、はっきり解りません。