精神科医と身体科医師の検査所見の評価の差異について | kyupinの日記 気が向けば更新

精神科医と身体科医師の検査所見の評価の差異について

今回は、精神科医と身体科の医師の検査所見の評価の差異についての話。差異と言うより、乖離と言って良いかもしれない。

 

人によればリスパダールやインヴェガで治療をしているとプロラクチン値の上昇がみられる。

 


リスパダールは脳内に移行が少ないため、脳外の血中濃度をある程度高めないと効くレベルまで達しない抗精神病薬である。そのため、血中プロラクチン値は高めになることが多い。以下は、上の過去ログの要点である。

 

プロラクチンが分泌される下垂体は解剖学的には血液脳関門外に位置している。これはおそらく下垂体という組織はホルモンの分泌器官なので、血液脳関門内にあった場合、体の組織に移行しにくくなるからと思われる。下垂体はその役割から血液脳関門外にあった方が便利なのであろう。

 

リスパダールは脂溶性が低いため、低い血中濃度ではBBBを超えて僅かしか脳内移行しない。効果が出るにはどうしても高い血中濃度を維持せねばならず、その結果としてBBB外の下垂体は高濃度のリスパダールに晒される。

 

ドパミン遮断=プロラクチン値上昇、なので無月経になりやすいのである。

 

このプロラクチン値だが、若い人で高プロラクチン血症のために無月経が生じている人は他の薬に変更できるなら試みるべきである。注意点として、プロラクチン値が基準上限を超えていても、無月経になる人とならない人がいる。

 

ただし高プロラクチン値が生じていても、月経周期に異常を来していないのであれば、そのまま医師の判断で継続するケースもある。その理由は、一言で言えば、統合失調症の人の抗精神病薬治療は一生に関わるからである。精神症状が安定しているのであれば、相対的に高プロラクチン血症など問題にならない。

 

リスパダールやインヴェガを処方し続けざるを得ないケースで、高プロラクチン血症を緩和させる方法として、少量のエビリファイを追加する方法がある。

 

 

この方法の良い点は、少量のエビリファイで改善できることである。もし大量のエビリファイを必要とするなら、エビリファイはD2親和性が非常に高いため、リスパダールのD2遮断性を弱め病状を悪化させるリスクが高まる。つまり、薬剤同士が抗精神病作用として相乗効果にならず、マイナスに作用しかねないことを意味している。

 

今回のタイトルだが、このプロラクチンの上昇(それも上限を少し超えた程度)が気になって仕方がない身体科の医師がいることを指摘している。精神科医は、プロラクチンが多少上昇していることがわかっていて薬物療法を継続していることもある。

 

プロラクチン上昇は若い人と年配の婦人では意味が異なる。若い人では月経が正常に来ないことは問題だが、年配の婦人では既に出産を終えているので月経が来ないことのマイナスはいくらか減少する上に、月経が来ないことで、月経前後で精神症状が悪化する人であれば、本人がむしろ歓迎していることもある。

 

また高齢の婦人では、臨床感覚的にリスパダールやインヴェガから安全に他の薬に変更できないと思うこともある。リスパダールは非定型抗精神病薬の中ではやや定型抗精神病薬よりの抗精神病薬であり代替する薬があまりないのである。

 

そもそも高齢者に対し、プロラクチン値上昇の理由で、リスパダールからセレネースやトロペロンに変更するなんて論外だし現代的でもない。

 

また、高齢者にリスパダールを処方されていることは、他の非定型抗精神病薬がほぼ不適切というケースも自分の場合良くある。高齢者にはリスパダールは重い薬と言うべきで、使わざるを得ないのはそれなりに理由があることが多い。

 

検査値でプロラクチン以外では、CPK値も挙げられる。一部の精神病患者さんでは、無症状で、恒常的に少しCPKが上昇を来していることがある。これは疾患のそのものに由来する上昇か、抗精神病薬の副作用であるが、薬を変えても下がらないこともあり、精神科医は消極的だが放置せざるを得ないこともある。

 

それは精神科医が、統合失調症における抗精神病薬継続がいかに治療の根幹であるかわかっているからである。

 

しかし、特に整形外科医の中では、このCPKの上昇(しかも上限を少し超えた程度)が気になって仕方がない医師がいるようなのである。これは整形外科医が筋肉をよく診る医師だからに留まらず、膠原病なども視野に入るからかも?と思ったりする。

 

例えば指定難病の皮膚筋炎などである。CPK上昇は診断基準にある。

 

また関節リウマチもそうである。これもCPK上昇を来す疾患である。なお、古い過去ログに統合失調症の人はリウマチにならないか、滅多にならないと言う記事がある。

 

 

神経内科では、いくつかの難病が神経筋疾患などと呼ばれるが、もともと神経と筋肉は非常に関係が深い。統合失調症でも緊張病状態ではCPKの著しい上昇を来すことがある。

 

統合失調症は神経筋疾患とは見なされていないが、筋肉にも疾患の表情が顕れると言った風に、病態の状況を知らせてくれる面があるのである。