家族内の疾患バランスについて | kyupinの日記 気が向けば更新

家族内の疾患バランスについて

単科精神科病院に限らないと思うが、精神科医はある家族の中の数名を並行して治療することがある。例えば、親子、夫婦、兄妹、孫とその祖母などである。一方、家族でも主治医が異なることもある。

 

僕の場合、例えばある患者さんが「娘も精神科の病気と思うので診てほしい」と希望した際に、それを引き受けて診始める流れが多い。このような希望は断りにくいのである。

 

このようなケースでは、それまで家族を診ているので概ね家族関係がわかっているし、遺伝子の関係もあるのかフィットする薬が似ているので、効率的に治療ができることが多い。疾患が異なっても同様である。試行錯誤が少なくなるため、患者さんにとってもメリットが大きい。

 

ある時、エビリファイ(アリピプラゾール)やレキサルティが合わない男性を治療していた。ある日、その患者さんが娘がある病院で治療しているが、診てほしいと希望されたのである。

 

このようなケースは、既に他の病院で治療が続いているわけで、引き受けるのはそれなりに決断が必要である。初診なら簡単に引き受けられるが、既に治療が始まっている場合は、そういう風には思わないのである。

 

と言うのは、以前より良い結果が出ないといけないと言った気持ち的な縛りが生じるし、病院にもよるが、患者を引き抜く感じになるので、その方も少し気になる。

 

しかし僕が診始めて、以前より悪化するようなことは確率的にかなり低いので、心の底では転院して治療した方が良いとは思う。転院したが、さほど改善しないか、あまり変わらないと言うのはたまにある。

 

その娘さんは、なんとエビリファイで治療されており、それを漸減中止し、ラミクタールを併用したり、抗うつ剤を整理(ほぼ中止)することで、就労できるまでに改善した。

 

普通、精神科医はエビリファイやレキサルティで治療されていると、現代的というか最前線の医療をされていると錯覚するが、そう思うのは迷彩である。彼女の場合、合っているのかそうではないのか曖昧なレベルでフラフラしていたから、わかりにくかったのだと思う。

 

おそらく、父親のエビリファイ不適切と言う情報がなかったとしても最終的にはエビリファイを中止しているような気が非常にする。その中止するまでの時間が短いかどうかの差はあると思うので、そこが患者さんにとってのメリットなんだろう。

 

ちょっと状況が違うが、診察中に例えば娘さんが地元の精神科病院にかかっているが、調子が良くない話を聴く場合。その患者さんは車で40分以上、それも高速道路も使って通院しているのである。その患者さんが僕に娘さんの治療を希望するならともかく、こちらからは「診てあげましょう」なんて到底言えない。その男性は驚異的に改善しており、普通に仕事をされていてもそう思うのである。

 

その娘さんは良くなるとは思うが、毎回来院するのに身体的な負担が大きすぎるからである。

 

それでもそういう人がたまにいて、その女性患者さんは朝5時台に起きて、6時くらいの電車に乗り、やっと12時前にうちの病院に着く。地方では、東京都内のような交通の利便性はないのである。

 

そのような経緯で、家族内の数名を診るというようなことが良く起こる。同じ疾患のこともあるし、異なる疾患のこともある。

 

今回の記事は、そのようなケースで精神疾患がどのように変化するかの話である。

 

例えば、ある年配の男性を診ていたとしよう。依頼されて娘さん(既に成人している)の治療を始めて、次第に以前より改善してくるにつれて、なぜか依頼した父親の精神症状が以前より改善するのである。

 

これは様々な考え方ができると思うが、1つは「父親なので自分がしっかりしないといけない」と言う気持ちの変化もあるように思う。つまり、気の持ち方が、疾患の重さに影響していると言える。

 

ちょっと異なる考え方は、娘さんのメンタルヘルスの不調が本人のストレスになっていて、娘さんの改善につれてそのストレスから多少解放されて本人の安定に繋がっていると言うものである。

 

ところが、夫婦はそういう風にはいかない。過去ログに「配偶者の自殺」という元々ボツ原稿だった記事がある。

 

 

この記事の中では、精神を病んでいる人の配偶者は、精神的にしっかりしているように見えてもそうでもないと言う話が出て来る。

 

親子と夫婦のケースで経過が異なるのは、夫婦は血縁がないし、配偶者が次第に安定することで、心のバランスが崩れる(緊張感が緩む)ことがあるのだと、今はそういう風に理解している。

 

(終わり)