未熟な俺は、不用意な行動で親友リックを

死に追いやってしまった。

   死んでしまいたい…。絶望的な俺を救って

くれたのは、LME社長。

  父の母国、日本で俳優として生きて行くこ

とを勧めてくれた。

  芸名は敦賀蓮。母国アメリカに帰ることが

できるのは、ハリウッドからオファーがきた

時。本名を公表できるのはハリウッドで成功

した時。

  もう、帰ってくることはないかも知れな

い。

  父さん、母さん。親不孝な俺を許してくだ

さい。二度と会えないかも知れない…。

  日本で俳優活動を始め、思いのほか早く

スター俳優の仲間入りをした。

   しかし、演技力ではなく、日本人にはなか

なかいない190㎝という身長と色を変えても

滲み出る親譲りの美貌のせいというのは判っ

ていた。

   本国では七光りだと現場で苛められてい

た。子役時代からずっと。

   荒れていた俺が気分転換で父と訪れた日本

の古都京都。

   そこで、キョーコちゃんと出会った。

   多くの不幸を背負っているのに明るかった

キョーコちゃん。

  俺のバック転をめちゃくちゃ誉めてくれ、

自信と演技への情熱を呼び覚ましてくれた女

神。彼女の笑顔に癒された数日間。もう二度

と会えないと判っていたから『妖精さん』の

ままにしておいた。

   悲しむキョーコちゃんのせめてもの慰めに

と俺は自分の『御守り』を彼女に渡した。

   思えば、俺の初恋の女の子はキョーコちゃ

んだなあ。

   本国では多くの女性と付き合った。付き

合ってほしいと言われると気さくに付き合っ

た。でも、いつのまにかサヨナラ。あまり

印象に残っていない。
 
もう、そんな軽い付き合いもしない。敦賀蓮

が評価されるまでは誰とも付き合わない。
 
いや、人を殺した俺は誰とも付き合えない。

素性も知られてはならないから男性の友人も

作れないな。

  マネージャーの社さんにくらいはと思いつ

つ言い出せないでいた。

  話して嫌われたくないのが本音かな。

 彼のことはとても信頼しているが…。

  日本に来てからの俺は本当に孤独だった。

演技しているときはいいが、たまのオフに一

人で部屋にいると無性に死にたくなることも

あった。両親も来てくれない!

  そんな俺にとって思いがけない出来事が起

きた。

  彼女がLMEに入ってきた。京子と言う芸名

で。俺の凍りついていた心が溶け始めていっ

た。ものすごいスピードで。

  クオンと敦賀蓮は別人と自分を諭しても

もうダメだ。好きでたまらない。誰にも奪わ

れたくない。君のことを手に入れたいよ。
 
キョーコ!!



   「愛してる。」

 バレンタインデーに彼女に告白した。

    「私もですよ。」

キョーコは恥ずかしそうに微笑んだ。

俺は彼女の唇に軽くキスをした。

舌を絡めるキスなんてまだまだしないよ。

怖がらせたくないからね。

じっくりとかからせて貰う。でも逃がさな

いからね。

   白いウエディングドレスを着た君をエス

コートするまでじっくりと楽しませて貰う

よ。

   そうそう、キョーコ、君はキスの先って

知ってる?