「京子ちゃん、お願い！一生のお願い。」
衣装部の真奈ちゃんからお願いされたのは
……。
「私、いくらなんでも。一応、女優です
し。私だけ未成年というのもおかしくない
ですか？」
「大丈夫！京子ちゃんなら出来る！衣装と
メイクはまかせといて！」
真奈ちゃんに押しきられてしまった。
真奈ちゃんに頼まれたのは、合コン参
加。インフルエンザで欠席の友人の代理
だ。初めての合コン。芸能人って行って
いいものなのかな。それに女性参加者は
20代後半で男性は30代のIT企業の役員の
方々だそうでそんなとこに出掛けて行って
浮いてしまうのでは？
「演じるのよ！貴女はキャリアウーマンの
マリア。」
真奈ちゃんはノリノリだけど大丈夫なの
かな？
事務所に知られないようにしなきゃ。社
長にも椹主任にもそして…敦賀さんにも。
「マリアちゃんていうの？可愛いな。
二十歳そこそこに見えるな。」
「このカクテル美味しいよ。」
合コン参加の男性に取り囲まれて困惑
するキョーコ。
(…何故に私に大勢の殿方が？真奈ちゃんの
メイクマジック？！)
キョーコは20代後半に見せるためにかな
り濃いめのメークをし、京子と知られない
ために金髪に近いウイッグをつけた。
しかし、若い女性と遊び歩いているIT
企業の役員たちはキョーコが未成年で
は？と敏感に感じ取っていた。
皆がキョーコをお持ち帰りしようと
虎視眈々と狙っていた。
「向こう賑やかだな。」
社が驚いたように言った。
「合コンみたいですね。男性はアールマ
ンディの顧客もずいぶん居ますね。」
蓮が苦笑した。
二人は仕事帰りに珍しく夜景の見える
レストランに食事に来ていた。
「男二人で恥ずかしいけど、このくらい
のグレードのとこじゃないと『敦賀蓮』
が現れたら騒がれるからね。」
「すみませんね。相手が俺で。よかった
ら合コンに混ぜていただいたらどうで
す？」
「ホントだね。それにしても華やかな集
団だな。男性はIT系だな。女性は航空系
かマスコミかな。真ん中にいる子、すご
い美人だなあ。」
社が見つめている女性に目を向けた
蓮は次の瞬間、顔を強張らせた。
「蓮？」
蓮は立ち上がると合コンしている
テーブルに向かった。
蓮の姿を見て、テーブルはざわつく。
「え～っ、敦賀蓮！」
「うわあ、本物だ。」
女性だけでなく男性も生の敦賀蓮に
息を飲む。
蓮はにっこりと微笑んでキョーコの
側に来た。
「お嬢さん、よろしければ俺とデート
していただけませんか？」
「え？」
キョーコは目を白黒させた。
(…敦賀さん、どうしてここに？というか
最上キョーコと気がついていない？)
近くにいた真奈も慌てた。
(…敦賀さん、何でここに？まずい、気
がつかれたら大変だわ。)
「あの、敦賀さん、今、合コン中で。
すみませんが、その娘を連れていかれた
ら困るんですが？」
真奈は意を決して蓮に話しかけた。
「おいで。」
蓮は真奈を完全無視してキョーコの
手を引いた。
ポカンと口を開けたまま、二人をみつ
める一同。
その光景に社も驚いた。
(…いくら可愛いからって合コン会場から
連れ出すなんて。お兄ちゃん知らない
よ。)
「社さん、彼女と帰ります。すみません
が、お送りできません。」
「あ…ああ。気にしないで結構。お疲れ
様。明日は午後からだから迎えにいかない
から。」
社はロボットのようにギクシャクとしゃ
べり蓮を呆然と見送った。
(…あれがあいつの本性だよな。うんう
ん。しかし、キョーコちゃんに知れたらど
うするつもりだよ。)
後編に続く