オーディションに合格した奏江に

 同行してアメリカにやってきた

 キョーコ。

 主な役目は通訳のようなもの。

 関係者への挨拶がスムーズに行える

 よう傍についていた。滞在は2週間。

 「キョーコが帰ったあと、私やって

 いけるかなあ。」

 奏江が珍しく弱音を吐いていた。

 台本は瞬時で覚えることのできる

 奏江であったが、英語はからっきし

 ダメだった。

 「モーコさんならすぐに適応できると

 思う。

 本当は私が仕事を一年休んでモーコ

 さんの傍にいたかったんだけど事務所

 から却下されちゃって。でも、

 大丈夫!!モーコさんが

 安心して過ごせるように助っ人を用意

 したから。」

 「助っ人?」

 「私はお断りだけど、モーコさんの

  役には立つと思う。」

 「?」

 「呼んであるから。顔だしていいわよ。」

  現れたのは不破尚だった。

  「不破さん、何でここに?」

  驚く奏江を尚は一瞥した。

 「相変わらず、あんた世の中のことに興味

 ないな。俺は半年前からロスに住んでるん

 だよ。出国のとき泣き叫ぶファンの

 見送りで大きなニュースになってるぜ。」

 「はあ…。」

      気のない返事の奏江に構わず、尚は話を

  続ける。

 「めちゃくちゃ忙しいが、親切な俺は

 英語のできないあんたが、困ったときに

 助けてやるつもり。」

 奏江は困惑してキョーコを見、ぼそぼそ

 と話しかけた。

 「彼、あんな親切なキャラだっけ?

 気持ち悪いんだけど。」

 「大丈夫。強力なエサがあるから。」


  数時間前。

 「ホントに毎月瓢箪漬けを送って寄越

 すんだな?」

 「最上キョーコに二言はありません。

  約束を違えたら…」

 「どうする?うちの旅館で仲居というのは

  ダメだからな。」

 「判った。ロスに住み、あんたの専属

  シェフになってやるわよ。」


  キョーコの話を聞いて奏江は呆れた。

 「それって結婚するってことじゃない

  の?」

 「シェフですっ!」

 「……………。」
  

               End

  初稿2020,1,3