2021年8月3日に茨城県牛久市のハードオフで購入しました。思い返せばこの店、自作スピーカー関連の在庫が多かったような気もする。本機はジャンク品コーナーの楽器系音響機器が置いてある中にあってお値段は6000円。値札には「音は出ました」と書いてありました。動作が期待できない状態なら6000円は高いが、まあ音が出てるなら、と購入。だがしかし。

持ち帰って通電するとLED類は点く。ボタンを押すと操作に反応もする。しかしデジタル信号を入力してもヘッドホン/アナログ出力共にものすごいノイズまじりの音です。フルスケールの信号を入れているのにメーターが半分以下にしか振れません。ウム、確かに音は出る。けど使える音ではない。久々にハードオフでハズレを引いてしまった。まあジャンク品なので文句は言えないが。

耳で聞いた感じDC電源の波形がまともではなく、それが全てに影響しているように思われます。ネットで軽く調べると、本機種は電源の三端子レギュレータの脇にある1000uFの電解コンデンサーが熱で劣化する傾向故障があるらしい。もしかしたらそれかもしれない。そういえば以前修理したBEHRINGER ADA8000も同様に三端子レギュレータの放熱設計に難があった記憶がある。

開けてみました。中身は基板面積が小さくてスカスカ。底面に丸い凹みがあったのでてっきりトロイダルトランスが入っているのかと思っていましたが、予想に反して普通の形のトランスが2つ。


しかし、なんだかトランスの取り付け方や配線がいい加減だな・・・。中央のトランスはボンドで底面に取り付けられていて、配線もショートこそしていないが美的感覚が無いというか、外から見えないとはいえ見栄えが素人くさい。


件の電解コンデンサーは外観上膨らんだり液漏れしたりはしていないように見えますが、7805の根本を見るとランドとの接点が怪しい。しかし測ってみるとこの部分の電圧は入力11Vで出力5Vと正常でした。


本機種はユーザーによる改造例が多く、ネット上で見られる内部写真が豊富です。こちらの記事(http://www.audiotechno.fr/html/src2496.htm)によると、SRC2496の中身は(上の写真と左右が逆ですが)こんな感じ。


検索して複数の内部写真を見ましたが本個体のように『トランスが2つ付いている』写真は他に見かけません。ビニールテープを剥いてはんだ付けを見た時、これは素人改造ではないかという疑いが湧きました。


コンセントに近い側のトランス(機種名表記あり)からはオレンジ色の2本と黄色2本の4本の配線が出ていて、ツイストされた黄色線が謎のトランスを経由して基板側のブリッジダイオード付近に接続されています。


測定してみると謎トランスの入力はAC21~22V位で、出力は・・・なんとAC3.9V~4.0Vという衝撃的な値。コンセントに近い側のトランスに貼ってあるラベルによるとオレンジ色線は10V、黄色線は18Vの出力です。


おそらくオレンジ色がデジタル5V用で黄色がオペアンプ(ベリンガー製品の常としてこの製品も4580を大量に採用している)で使う正負15Vアナログ電源用の元と思われます。電解コンデンサに隠れて品番が見えないが、これが7815/7915だと思う。


その辺の4580の電源電圧を測ると±2~3v程度しかありません。驚愕。よく動いてるなこの機械。まさかと思いながら謎トランスから黄色配線を外してジャンパ線で直結してみたら正常動作します。4580の電源電圧は±14Vで安定しますし、出力メーターもピークまで振れるようになり、出音も正常なように思える。


謎トランスをパスして元通り?に黄色線をつなぎました。


結論として、当機はもともと壊れていなかったが、前の持ち主が何らかの目的で要らん改造をして壊してしまったとしか思えません。いったい何故このような改造をしたのでしょうか?

本機は業務用機なので、カタログスペック上、0dBFS入力で+16dBu(4.89V)の出力レベルがあります。これを最大でも2~2.5V程度の入力による動作を想定した民生用オーディオ機器に繋ぐと当然オーバーレベルです。とりあえずD/Aの音を聞こうと思えばデジタルのレベルをぐっと絞れば良いが(ただしデジタル機器側にレベルを絞る機能が付いていれば、ですが)、するとメーターがあまり振れない状態で本機を使うこととなりビット処理上もS/N上も音質的に不利です。このような場合、プロ音響の常套手段としては左右のXLRアナログ出力に20dBのATTを入れて民生機のライン入力端子に繋げば良いのですが、いわゆるピュアオーディオ界隈の人たちは信号にATTを入れることを蛇蝎のように嫌います。

そこで、もしかすると前の持ち主はオペアンプのレール電圧を民生機の入力に即した電圧まで下げればデジタル側の出力レベルを下げずにD/Aとして使えるのではないか、と考え、この改造を施したのかも?という憶測が湧きました。前の持ち主はプロ音響の現場ではなく、家庭用の趣味のオーディオに本機を使おうとしていたのだと思うのです。

とはいうものの、電圧を下げるためにわざわざトランスを追加しているのに、正負電源用の三端子レギュレータ2個は交換しないというのは変ですし、AD/DAやサンプルレートコンバーターのICの電圧も一緒に下がってしまうので、正常に動作しなくなる可能性が高まる事は少し考えれば想像がつきそうなもの。なんとも中途半端な改造で、憶測は憶測の域を出ません。明らかに正常な音ではなくなったのに原状回復をしなかったのも謎であって、もしかして前の持ち主には良く思われていなかったのかなこの機械?それともこういうモディファイが本当に流行ったのでしょうか???



なにはともあれ、私は6000円を無駄にせずに済んだのでホッとしました。修理(というか原状回復)後、しばらく使い道がなく放置していましたが、これは複数のデジタル出力をまとめるのにとても便利な機械で、現在はラックに入れて毎日フル活用しています。

(がんくま)