SONYのステレオマイク、メーカー希望小売価格は30,800円、売価はおおむね2万円で、ハイエンド民生とセミプロをターゲットにしたいわゆるプロシューマー機です。

エレクトレットコンデンサーマイクロホン ECM-MS957
https://www.sony.jp/microphone/products/ECM-MS957/

発売は1996年ですが販売終了は2017年とかなりのロングセラーでした。1996年頃といえば私は職場にあったSONYのECM-999というステレオマイク(このマイクも2014年までカタログ掲載があったらしい)を録音で使っていましたが、今はMS方式の小型ステレオマイクって持ってないなあ、と思っていたら動作未確認のジャンク品を2000円で落札できました。

手に入れたのは本体のみです。商品説明によると電池入れが液漏れで腐食していて通電確認できず、とのことで開けてみると確かにこれは酷いです。アルカリ乾電池を長期間入れっぱなしにしていたのでしょうが電解液が激しく液漏れした形跡があります。カバーの内側には電解液が結晶化した白い粉がべったり付着しています。



白い粉は水酸化カリウムという強アルカリ性物質だそうで触らないようにウエットティッシュでふき取ってから電池を入れてみましたがもちろん何の反応もありません。壊れています。

ネットで検索すると日本語マニュアルと海外モデルらしきECM-MS957proの英文サービスマニュアルが手に入りました。まだ市中在庫もある機種なのでソニーステーションで修理部品が手に入るかもしれません。同じマイクを分解した方のブログがあって大変参考になりました。

ECM-MS957のウレタン問題(NIMTAblog)
https://nimtablog.com/2019/05/03/ecm-ms957%E3%81%AE%E3%82%A6%E3%83%AC%E3%82%BF%E3%83%B3%E5%95%8F%E9%A1%8C/


カプセル側のカバー(上部カバー)を外すネジ2本のうち1本が腐食で固着しており、潤滑油を塗って放置してみるもダメなので仕方なくドリルで頭を飛ばしました。カプセルを回転させるツマミの中にあるネジ2本とそのツマミとプラスチックワッシャー2個、電源スイッチのスライダー1個を外すとカバーが引き抜ける・・・はずなのですが抜けない。カバーの内側も腐食していてジャリジャリと嫌な音がしますが力を入れてギコギコとねじりながらでないと抜けません。液漏れによる腐食錆と白い粉が内部にまで進行していますが、カプセル部分は無事。



上部カバーの内側にスポンジは無く、金属メッシュのみ。


基板を覆う内部の金属製カバーを外すと、その内側にも錆が。しかし、幸い基板は大丈夫そうです。


マイナス側のスプリング電極は錆だらけで触っただけでボロッと先端が砕けてしまいました。クリップで電池をつないでみますとちゃんとL/Rどちら側からも音声出力があります。電極さえどうにかできれば復活できそう。



マイナス側電極は基板の下にあるので、金属カバーとの接点を保つバネとネジを外して基板を持ち上げますと、トランスが2個入っています。巻いてあったと思われるスポンジが加水分解していて砂のようなグレーの粉が大量に出てきます。




基板端の5pinコネクタへ向かう配線のランドの脇にマイナス電極の黒いリード線がはんだ付けされていましたのでこれを外し、

リード線ごと電極のスプリングを引き抜きます。


ジャンク箱の中に単4電池用っぽい電極がありましたので、これを加工して同じ長さのリード線を取付け、


もとの電極があったところに金属板をひっかけて接着材で強引に取り付けます。見てくれは悪いが、要は外れずに電気が通ればよいのだ(直せそうとわかってテンションが上がっている)。


トランスのスポンジは両面テープごと剥ぎ取って新しいスポンジを巻き、粉や錆、白い粉をなるだけ吸い取って、錆には錆チェンジを塗りました。基板とバネを取り付けて、マイナス電極のリード線をはんだ付け。




この時点で動作確認をしましたが正常動作している模様なので、各配線を整えてカバーを装着します。


各カプセルの裏にインピーダンス変換用のFET(2SK1578?)が直接付いていて、下側のカプセルはそれごと90度回転します。


マイクを立てて(サイドアドレス使用)で見たとき、上側に固定のSIDE用カプセルがあって下側が可動式のMID用カプセルです。したがってエンドアドレスで使うときはMID用カプセルの前にSIDE用カプセルがあるという面白い構造をしています。サイドアドレスの時はMID用カプセルの前には何もありません。


音源への向き。取り扱い説明書にサイドアドレスのほうが明瞭に録れる、と書いてあるのは上記の仕組みのせいか。


下部カバーの内側の水酸化カリウムは、歯ブラシや金属ブラシを使って酢とかクエン酸とか中性洗剤、ジフ等いろいろ試しましたが簡単には取れず、結局マイナスドライバーでガリガリと削って紙やすりという方法でしか歯が立ちませんでした。

修理テンションが高いうちに標準添付品と同じ5pinXLR(5-11C)とステレオミニプラグのOFCケーブルを作りました。

1 GND → Sleeve
2 L+ → Tip
3 L-(1とショート)
4 R+ → Ring
5 R-(1とショート)


出力コネクタを見てみるとHRSの刻印があります。


製品説明にノイトリック製コネクタ、とあるけどあれはケーブル側なのかな。


5pinXLR(5-11C)から3pinXLR(3-12C)x2への変換ケーブルがあればバランスL/R出力も引き出せます。ECM-999やSANKEN CSS-5と同じ配線ですが本機は電池運用製品なので、ファンタム電圧はかけられません。

SONY FS100 に最適なワンポイントステレオマイク(ルーラルアート+ふるいちやすしの日記)
https://ameblo.jp/loo-ral/entry-10997750213.html

5ピンXLR-3ピンXLR STEREOマイクケーブル(少年カメラ)
https://pokecamera.exblog.jp/28356035/

修理後、本体マイクが不調なICR-PS1000Mにつないで、近所の公園で環境音を録ってみました。


いかにもSONYのECMマイクって音がします。低音を拾っていないわけではないのですが、全般には低音が薄い印象でゲインも低めのやや地味な音です。値段が一桁違う本格業務用のマイクほど「すごくよく聞こえる」感じはありません。でも、昔は数千円で買える程度のマイクは音がとても悪く玩具のようなものだったので、それに比べればずっとまともです。逆に言えば、現代のステレオマイク内蔵のICレコーダーは、この水準のマイクを本体に搭載できているのだな、と思います。このセットだと乾電池2本でコンパクトに運用できるので、車に常載しておこうかな。

(がんくま)