前回に引き続き、スモールダイアフラムのエレクトレットコンデンサーマイクをいじります。

■SONY ECM-270/270F
世界で初めてエレクトレットコンデンサーマイクを実用化したSONY、同社の一般収音用ECMマイクは有名なECM-23Fシリーズが筆頭で、ECM-270はその廉価版にあたる民生機のひとつだそうです。前回のPrimo EMU4545と同じく1970~1980年代初頭のいわゆる「生録ブーム」の頃に販売されていたらしい。そういえば最近流行のASMRもマイクを通して録音した音を聞き、その良さを再発見するという点では生録ブームの再来と言えるかもしれません。生録ブームとASMRブームの間にはパソコンの進化によるDTM技術の向上があったものの、マイクを使って録音された音楽以外の音を楽しむなんて行為はごく一部の専門家を除いてこの40年間、一般の人には無縁だった気がしています。



このマイク、私は当初興味が無かったのですがハードオフに元箱付きで綺麗な中古品があり1,000円だったので買ってきました。開けてみると電池が入ったままになっており端子が腐食していました。しかし、錆を落とすとまだ使えました。マイクの電池はちゃんと抜こう(自戒)。


生録ブーム当時の録音機はアナログの磁気テープを使っていて、民生機はカセットテープ、デッキの録音端子はアンバランス入力でした。ECM-270/270Fの本体側の出力コネクタは3ピンの特殊仕様(説明書にはソニー独自規格と表記がある)で、そこからΦ6.3mmのTSフォンプラグ(2極)ヘ変換する専用ケーブルが付属。つまりお客が購入した時点ではアンバランス出力です。


しかし説明書には先端のTSフォンプラグを3極のXLRキャノン等(説明に110号プラグが書かれているあたりに時代を感じます)に取り換えることで「プロフェッショナル製品と同じ平衡接続でも出力できる」と書かれています。2極プラグのまま使う気は最初から無かったので、まず変換ケーブルの先のコネクタを交換します。



フォンプラグ側は黒線が網線側(アース側)に落ちていました。


出力にトランスが入っているはずなのでプラグから線を分離して説明書の通り赤をホット、黒をコールド、網線をアース(シールド)としてXLR-3-12Cコネクタにはんだ付けします。コネクタを交換してもファンタム電源では動かず必ず乾電池が必要です。マイク本体側の3pinコネクタは酸化して黒ずんでいたので磨きました。




期待せずに音を聴いたのですが、これが予想を裏切って意外と良かったです。乾電池式でマイク内部に増幅回路が無いのでゲインが低いものの、先日修理したECM-MS957を含め、過去に自分が使ってきたSONYのECMマイクの音を「硬くて抑揚が薄い地味な」印象で決め打ちしていた身からすると、派手ではないにせよ「ふくよかで柔らかい感じがしてなんだこれ悪くないじゃん」とだいぶ見直すことに。周波数特性だけ見るとあまり良くないかもしれないが、そもそもフラットな特性のマイクはあまり面白くない音に感じることが多いものです。

勢いでもう1本箱付きの中古品を購入し、同じように専用ケーブルを加工してバランス出力化しました。ケーブルの材質や加工は1本目と同じで、こちらのほうが劣化具合が少なく新しい印象。音を聴いてみたところ、2本目も悪くないのですが微妙に音が違います。箱の印刷の色が青と白で違うので何が違うんだろうと思ってよく見たら白いほう(最初に買ったほう)がECM-270Fで、青いほう(後から買ったほう)がECM-270でした。


どちらもナチュラルに高域が落ちた柔らかめの音でたいした差は無いものの、ECM-270Fの音のほうがわずかにシャッキリしていて好みです。いかんせん現在主流のファンタム電源マイクに比べると出力電圧的に不利なので、ローノイズなマイクプリでないとホワイトノイズが気になるかもしれません。単3乾電池の代わりにCR2電池を直列で2つ使って電圧を上げると多少改善できるかも。音色的に金物や楽器の収録よりも声や環境音を録るほうが良さそうと思いました。アコギにも意外と良いかもしれない。


270と270Fは何が違うのか、説明書の定格だけ比較すると、

周波数特性:40Hz~16,000Hz
出力インピーダンス:600Ω(推奨負荷インピーダンス3kΩ以上)
最大入力音圧レベル:126dB SPL(0dB=2x10-4乗μbar)
信号対雑音比:46dB以上(1,000Hz 1μbar)
自己雑音(等価入力音圧換算):26dB SPL以下(0dB=2x10-4乗μbar)
ダイナミックレンジ:98dB以上
開回路出力レベル:-70.0dB(0dB=1V/1μbar 1,000Hz)

ここまでは変わらず、

実効出力レベル:-55.8dBm(0dBm=1mW/10μbar 1,000Hz) ←ECM-270
実効出力レベル:-53.8dBm(0dBm=1mW/10μbar 1,000Hz) ←ECM-270F

とわずかにアップしています。外形サイズと消費電力は同じですが重さは270が125g、270Fが130g(いずれも電池込み)となっています。下の写真の左側が270で右側が270Fです。


スペック的には現在主流のファンタム電源を使うSDCマイクと比べると等価雑音レベルも高く、10〜20dBほど出力が低く、+4dBuのラインレベルまで上げようとするとその分ノイズも目立つのですが、民生用カセットデッキのマイク入力端子に接続して使う場合はそこまで上げる必要も無かったはずで、これで良かったのかなという気がしました。

つづく

(がんくま)

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