前回の同一機種の修理から6年経過し、別の個体を入手しましたので再び修理しました。結果として症状も修理内容もまったく前回と同一です。具体的な修理内容については下記の前回記事を参照してください。

関連記事
Symetrix Lucid 88192 のノイズ修理

修理前は入力に何も繋がなくてもAnalogINの全chにノイズが乗っていてメーターで視認できます。前回修理したものよりノイズの状況が悪いです。


Routing設定でAnalogIN→AnalogOUTにすると入力の音をスルーアウトできますのでモニターしてみるとザーッと大きなノイズが出ています。チャンネルによってレベルや音色が違います(ザーッに少しチリチリゴロゴロが混じっていたり)。最もレベルが大きいAnalogIN6chだと内蔵メーターで-20dB近くまで振れています。しかしA/Dに使わずD/DやD/Aだけで使うなら特に問題なく使えます。


分解してA/D基板からのフラットケーブルを抜くとノイズが消えます。この無信号状態でメーターの表示は-91.3dBでした。



交換には在庫の関係でニチコンのファインゴールド47uF/25Vと、PM10uF/50Vを使いました。前回の修理では東進工業(TK)の通常型コンデンサを使っていて、その修理品は現在も問題なく使えています。ファインゴールドは個人的には中低音が増して少し丸い音になる印象があります。電源平滑用途ではありますが、本機を録音で使うとやや硬めの音なので悪くはならんだろ、と採用。



電解コンデンサ交換前後の各チャンネルのCS5381のVA(アナログ回路用電源)の波形をオシロで測定しました。


交換前はどのチャンネルでも鋸歯状のリップルノイズが見られます。

CS5381 1/2ch VA 作業前


CS5381 3/4ch VA 作業前


CS5381 5/6ch VA 作業前


CS5381 7/8ch VA 作業前


交換後の波形です。ごくわずかに波打っているように見えますが、測定器自体のノイズです。

CS5381 1/2ch VA 作業後


他のチャンネルも同様にリップルノイズが消えています。聴感上も全チャンネルから滝のような轟音ノイズが消え、マイクプリで増幅して聴いてみても綺麗なホワイトノイズです。本体のメーターで全チャンネル-90.3dB表示です。



CS5381のVD(デジタル回路用電源)とVL(ロジック回路用電源)の波形です。こちらは無対策でも特に問題ありません。

CS5381 5/6ch VD


CS5381 5/6ch VL


AES/EBUのインプットに付いているCS8416のVD/VL波形。こちらも問題ありません。

CS8416 3/4ch VD


CS8416 3/4ch VL


念のためメイン基板上にあるD/AのAK4396VFのAVDD(アナログ回路用電源)の波形も測定しましたがこちらもリップルノイズは無く問題ありませんでした。


ということで、2台の修理を通じて個人的にはパーツ自体の傾向劣化ではなく設計時のマージン不足じゃないか説に傾きつつあります。上記の3つのICと電子ボリュームとして使われているPGA2311のデータシートを読むと、他のICが20~60mA程度の消費電流で済んでいるのに対してCS5381は307~445mA(5V~3.3V)と飛びぬけて大きいです。レギュレータICも発熱すると思いますが、CS5381の左上のレギュレーターICから遠い電解コンデンサも劣化しているので、レギュレータICの発熱だけではない気がしていて、過剰負荷に対する耐圧不足か、CS5381自体の発熱の影響なのかもしれません。今回の部品交換で6.3V品が25Vに、35V品が50Vにそれぞれ耐圧アップしているので数年で壊れることは無いと思います。

本機にはTOSLINK I/OがありますがSPDIF入力には対応しておらず、S/MUXで96kHzまで使えるADATopticalのみの対応なので業務用途以外ではあまり使い道が無いと見えオークションでは不人気です(AES/EBUで出力するチャンデバとかサラウンドアンプがあれば家庭用に使う人がいるかも?)。AD/DAチップ的にも1~2世代前になってしまいました。自分で修理できる人が買う分はアリかなと思いますが、安いからと言っても半田付けできない人が手を出すものではないでしょう。

設定で出力を+4dBから民生機用の-10dBに落とせますが、説明書にアンバラ出力する時はコールドをアースに落とすな(=そのように配線されている簡易変換ケーブルを使うな)って書いてあるのも最近では珍しい(もちろんこれは正しい注意書きです)。デジタル入力系は放送使用の際の事故防止のためかデフォルト設定でサンプルレートコンバーター(SRC)がONになってしまう仕様なので、お使いの方はご注意を。

本記事を参考にした修理は自己責任でお願いします。

(がんくま)