母は栗タルト
私はアップルパイ

この日で私は還暦を迎えた

60歳代は初めて、ピカピカの一年生

自分のことだけを見ていると還暦はそれほど長い時間の感じはしなかった
けれど、目の前にいる母と出会ってから60年なのだと思うと、長い!ってビックリした

母は私を最初に見たとき、どんな思いがあったのかなぁ
認知症の母に聞いても、それをもう言葉には出来なくて
子供を生まなかったので、そう言う話をするきっかけが少なかったのが残念


この日の午後、母の実家の叔父が電話をくれた
「最近来ないけど、お母さんの具合でも悪いんか?」
私が忙しくしていただけなのだけど、有り難くて泣きそうになった

また夜には埼玉の叔父からも
「群馬に用事で行くから、帰りに寄っていいか?」と電話があった

叔父Aに会いに行き新米を買い
叔父Bと一緒に食べたくて叔父の好きなお茶菓子を買いに行くと
お菓子屋さんにはケーキが並んでいた

友達に断られるのが怖くて誕生日会を出来なかった小学生の頃も
誰かの誕生日にメッセージを忘れないよう、手帳に書き込むことに必死だった二十歳の頃も
誰よりももたくさんの人に祝ってもらう幸せを望んだ

還暦になり
何も起きない拍子抜けしたような日が、喜びなのだと思っている
ケーキのない誕生日も悪くない

私が喜べば、それが幸せ


夜、ベッドの中で伊坂幸太郎の『逆ソクラテス』を読み、猛烈に感動しているうちに日付が変わっていた


読んで下さって、ありがとう
何はともあれ大丈夫

つくし野ひろみ