『HOME~素晴らしき日の最後の一杯~』終演 | 森田和正の「画竜点睛」

『HOME~素晴らしき日の最後の一杯~』終演

劇団空感演人第十回本公演
『HOME~素晴らしき日の最後の一杯~』
無事に全公演終了いたしました。


自分が演じたのは「竹山和夫」



自分は彼が悪い人だと思えませんでした。
悪い人というよりも、

弱い人

だったのかな?なんて思ってます。

手紙を隠すときどんなことを考えていたのか、いろいろと想像してみました。

浦野への嫉妬もあるかもしれない。
戦争の記憶を封印したい気持ちもある。
真千子さんを悲しませるかもしれない。
今の幸せが壊されてしまうかもしれない。

でもあの瞬間、そんな色んなことを考えられるわけがないのです。

思い付いた理由を羅列してみて気がついたのは、

全部
自分のため

だったんです。

自分が傷つきたくない。
だから、手紙を隠す。

ものすっごく単純に言うとそんな感じ。
むちゃくちゃ自分本意。
エゴです。ハイパーエゴ。

でもそのハイパーエゴを貫き通すにはものすごい覚悟がいるんです。

結局彼はお墓まであの秘密を持っていくんです。自分の死後、妻がどれだけ苦しめられるかも知らずに。

舞台裏で年老いた真千子さんが
「お店を閉めないで!大事な手紙がくるの!」
この慟哭を聞いてるときが一番胸が締め付けられ、引き裂かれるような思いでした。

そして、手紙を隠す場面。
自分の目の前にいる妻は、いつもと同じ柔らかい笑顔をしていました。
辛かった。苦しかった。
自分がしてしまったことの大きさもわかっていたはずなのに。
でも言えなかった。
どうしても言えなかった。

きっと桜の季節に、雨が降るごとに
彼は思い出していたんでしょう。
自分のした、消えることのない罪を。
そして悔やんだと思います。罰として。
己の犯した罪。
そのことで背負ってしまった罰。
罪と罰。

手紙を隠したことによって竹山和夫はその後の人生を罪と罰のなかで送ったのだと思います。

自分はそんな彼のことを否定できない。
いくら罪を背負っても、
罰を負うことになっても、
あの時の選択肢はあれしかなかった。

戦時中は赤紙を渡す役目。
戦後はその重荷を背負い、幸せにすると決めた人をだまし続け、最後まで秘密を貫き通した男。

自分は彼が悪い人だとは
どうしても思えないのです。


時代に翻弄された人生。

でもね、自分は信じたいんです。


罪と罰を背負っても

秘密を隠し持っていても

竹山和夫は

幸せだったと。


最後まで妻に秘密もっててもさ、春には一緒に桜を見て、梅雨の時期には一緒に雨が止むのを待って、夏は避暑地に旅行したり、秋には色とりどりの紅葉を見て、冬は一緒に鍋をつついてね。

幸せだよ。

幸せだったよ。

真千子さん、ありがとう。
あなたを裏切り続け、
必死に秘密を守り続けたけど、
竹山和夫は幸せだった。
真千子さんがいたから、幸せだった。

ありがとう。

でも

ごめんなさい。
真千子さん、ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。

最後まで
死ぬまで言えなかった。
死んでも言えなかった。

ごめんなさい。

ごめんなさい。

一度溢れてくると、止められない。
謝っても足りない。





ごめんなさい。
























今回の作品に携わることができて
新しい自分に出会えた気がします。

素敵な作品を書いてくれた田島氏。
かけがえのない作品にしていただいた藤森さん。

共演者のみんな。

スタッフの皆様。

ありがとう。
感謝。

そして

この作品を愛してくれた
ご来場いただいた全てのお客様

本当に、本当に

ありがとうございました。


出演者の皆はまた次に進みますが
この作品が少しでも皆様の胸の中に
留まっていてくれたら幸いです。



竹山和夫さん
ありがとう。