【概要】
Nintendo e-shopが終了するのでDSソフトの見直し記事を書いていたら、
量が膨大になって下書きの収集がつかなくなってるらしい。
【今年遊んだADVの感想です】
『ジャックジャンヌ』 68点
宝塚的な特殊な演技環境を舞台にした学園もの、という設定的には変化球な作品だけど、用いている文法は古典的な少女マンガという印象。学園パートは演者側、舞台パートは観客側になるよう視点の転回を行っており、劇中劇を多重構造で楽しませる作劇的な特徴は『ガラスの仮面』にかなり近い。同作をかつて中島梓(栗本薫)が「演者に最高最期の一番はないのでは」と指摘していた通り、本作もクライマックスへ進むほど着地点に納得感が伴わない(最後の劇が締めくくりにふさわしい舞台、作品という印象まで至らない)というウィークポイントこそ共有しているんだけど、学園ものとして演者の視点数を増やすなど横幅が出るよう工夫を施してありドラマ的にはかなり作りこまれたものを感じる。ゲームとしてみると学園生活の疑似体験がメインアプローチと思われるが、ヒロインによってルート分岐する構造が学園内でのヒロイン格以外のキャラとのコミュニケーション機会を阻害していて、成長物語としてみても主要キャラのために世界がある天才集団の話にしか映らない点で、乙女ゲームであることが全体への悪影響を生み出しちゃっているかな~という所感は避けられない。分岐より没入感へ舵どった、もっと『金八先生』的な作りの方が合ってる作品かと思う。
最新刊が出たのは10年前だけど、話が進まなくなったのは30年以上前(作者が最終決戦の演劇が描けなくて、ずっと時間稼ぎをしている状況なんです)。分かりやすく言えば演劇が題材のスポコンジャンルなんだけど、試合ベースで進んでいくスポーツ部分を劇中劇に置き換えドラマとして厚みを持たせた多重構造や、呉智英も評価したご都合主義を恐れない作劇、天才型の主人公だが感情移入を阻害しない巧みな視点転回など見どころがかなり多い作品。ガラ仮自体ネットでイジられすぎてて、触れたことのない読者を敬遠させてるトコロはあるけど、『二人の王女』に入る前くらいまでは文句なしに少女マンガではトップグループの作品なので、読んだことがないなら気が向いたら触れてみても良いかも。
『春ゆきてレトロチカ』 54点
実写ドラマの犯人当てゲーム、という初報で真っ先に『トリックロジック』(犯人当てに特化した短編集ゲーム)の発展系を思い浮かべたんだけども、システム・ゲームデザインともに「犯人当て」の体をなした普通の映像進行のゲームという印象。『トリック×ロジック』は選択肢に頼らず推理のアウトプットを受け入れるシステム作りを重視して、それをゲーム側に伝えるために総当たりで方法を探すという「プレイヤーの推理を表現させる」為にいろいろ犠牲にしていたタイトルだったわけだけど、これに関しては(ディレクターの本意ではなさそうだけど)推理パートで選択肢を総当たりして情報を集めて、解決編の選択肢で推理をアウトプットするというアベコベなデザインになっていて、「犯人を当てさせる」というゲームルールがそもそも用意できていない。かと言って犯人当てのドラマとしては、トリック自体に面白みがないため、推理する物語として厳しい出来と言わざる得ない。連作ドラマとしては楽しめたので、犯人当てを最重視して話としてつまらないというこのアプローチのウィークポイントを補完しようとしているのは評価できるけど、それは想定した面白さとは別方向という気持ちにはなるかな。いやでも、歴代スクエニ実写ゲームでは間違いなく楽しめる方の作品です。
『ルートフィルム』 47点
やってることは今どき珍しい旅情ADVなわけだけど、島根というロケーションを活かすようなドラマの紐づけも没入感の演出もできてないので、かなり平坦なゲームという印象。狙い的にロケーション数には拘った作品と思うけど、同じカット割り・アングルが続いているので、画面として「興味のない観光雑誌をパラパラ読み続けてる」ような退屈さを感じる。河野一二三というと、個人的にはストーリーテラーというよりゲームデザイナーというイメージなので話がつまらないのは良いんだけど、やはりゲーム的な没入感が確立できていないゲームプレイ&デザイン作りだったのはちょっと残念。解明編は若干シナリオ面で持ち直しているので、そこは評価。
『冤罪執行遊戯ユルキル』 43点
何かを思い出すなと思ったらアレだ、『式神の城』。もう10年以上前から何度も何度も同じところをグルグル回ってバターになってしまったデスゲームという素材をSTGでどうアレンジするのかが見せ場だったものの、基本的にはアウトプット過程の障壁にすぎず、作品を特徴づける何かとか、没入感になっていないのは残念。『ダンガンロンパ』チルドレンのADVとして見ると、ミステリ的な構造が浅く情報収集で物事が終始していて議論に発展性がないとか、推理のアウトプットがいい加減すぎて解法に納得感が薄いとか、テキスト面での練りこみ不足は指摘を避けられない。正直、STGは全く遊ばないので、もしかしたらSTGとしてなら凄く楽しいソフトという可能性は否定できないし評価不能でも良いんだけど、システム演出としてSTGが入っているADVと考えてこの点数でよろしくお願いします。
『AIソムニウムファイル』 54点
前提として、近年の探偵ゲームではしっかりと金をかけて画面を作ってるし、ストーリーラインを引っ張るトリックは提示できていると思う。同じ打越作品だった『EVE Newgeneration』の時点で気づてはいたけど、ストーリー的な仕掛け(オチとヒキ)ありきで、既存の探偵ADVの重視する会話劇を楽しませるとか魅力的なキャラクターとか没入感を演出するゲーム作りとかに対する無関心は否めず、クリエイターの才能的にこの題材じゃないんじゃないかなという印象は着いて回るトコロ。ストーリー的なオチ以外で、捜査してる過程で記憶に残ったのはウケ狙いのギャグやクリックの反応っていう意味では、打越味が強すぎなソフトなのかもしれないけども。
『コーヒートーク』 50点
ドラマを描くというよりも、喫茶店でのコーヒーブレイクを疑似体験させる方向性のソフト。同じジャンルで言うと亜種まんがタイムきららだった『VA-11 Hall-A』より『BarOasis』に近く、プレイヤーに癒しとかチルアウト的なものを楽しむ精神性があるかで評価は変わるかと思われる。世界観的にはメンインブラック的なものと言えば想像しやすく、現実世界の時系列にフィクションの設定が拡張されていく部分が、コミュニケーション的には面白みになっているので、個人的にはそこをもっと深く描いて欲しかったけど、このソフトの本質はそこじゃないだろうしね。恐らく続編を重ねるほど新鮮味がなくなり、マンガ誌の微妙なポジションの長期連載みたいな惰性のつまらなさを生み出すと思われるので、Part2でどう拡げる気なのかは若干気になる。
『ドキドキ文芸部プラス』 50点
基本的には裏切りと不意打ちのフォーマットと思われるソフトなので、現在の評判が浸透している状況だと100%のパフォーマンスには至らないんじゃないかな。個人的にはキャラクターをフィクション上の存在と割り切っているのは良く見るけど、もう一歩PCゲームらしい仕掛けに踏み込んでるところは評価。話としての親和性も考えてるとは思うものの、仕掛けが面白みになっているかは疑問符だし大筋のストーリーはやはり再放送の世界でつまんないと思うのでこの点数。
『7年後で待ってる』 40点
話だけで見るともう何度目だよというタイムリープものなんだけど、問題は既視感だらけの設定よりもキャラ数が多い割に心情描写の書き込み不足が目立つ点で、特に終盤は「女の子にこういう行動取ってもらいたい」という着想ありきな相手の感情に対する想像力に欠如したような展開を辿っており、フィクションとして男のナルシシズム以上のものは感じられなかったのが痛かった。あえて言えばツクール制のADVをクオータービューに移し替えたようなビジュアル面が特色なんだろうけど、演出的に特筆するような要素にまでは行ってない。
【コメント】
もしかして、今回の記事で一番評価高いのは『ガラスの仮面』なのでは?