想い出 | 詩人 黒田誉喜  Blog from globe

想い出

「 想い出 」



僕は時々思い出す。

想い出を思い出す。



くそ忙しい日常のど真ん中


空を見上げ


立ち止まらないと見えない雲の流れに

気が付いた瞬間


記憶が、

淹れたてのカプチーノの湯気みたいに

大脳新皮質に立ち込める。




音が消えて

擦り切れた8mmフィルムみたいな映像が

目の前の景色と交錯する。




濁ったガンジス。

親指を咥えた褐色の少女。

歪んだ夜の眩しすぎたネオン。

立ち込めた煙を透かす裸電球。

あいつとバイクで走った環状七号線。

ゴルチェの甘い香り。

星座が見えないほどの星空。

雨に濡れた原生林。

腕の中で喘ぐ眼差し。

アンバサダーの排ガスの匂いと
鳴り止まないクラクション。




どこかで鳴ったクラクションが

想い出を掻き消し


僕はまた

くそ忙しい日常のど真ん中で

空を見上げる。


風が頬を撫でる。


世界は音を奏でる。



そして再び僕は
この世界を歩き始める。


想い出の種をひとつひとつ蒔きながら。




黒田誉喜

























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