〜あの雀荘には妖怪が住み着いている〜
その日は休日。
朝から顔を出してみると、
なんと昨日の夜にも見た顔がまだいる。
何十時間もぶっ通しで打っているようだ。
「もう俺、雀荘に住み着いてる妖怪って言われてるでしょ」
自らを妖怪と名乗る雀士。
そう、それが妖怪“小坊主”である。
風貌はまだ若めで30代といったところ。
小坊主の麻雀は一言で言うなら、鋭い。
小坊主と呼ばれる所以である、
猫背気味の小ぶりに見える体勢から、
キレの良い動きで鳴き・リーチを多彩に繰り出してくる。
その切れ味ある鳴きで、勝負手を潰されることもしばしばだ。
その日は何故か他に客も来ず、
小坊主とデスマッチ。
お互い調子も上々で、
激しい乱打戦が続いた。
そして…
小坊主
「ざわさんよ、俺に引導を渡してくれぇぇぇ〜」
ついにお互いにラス半をかけ、最終戦。
私も半荘15本程度は打っているが、
小坊主は既に40本は越えているであろう。
よかろう、私がこの雀荘に住み着く妖怪に、
引導を渡してやる。
南3局
小坊主 27000
ざわ 26000くらいで、
全員2万点台の超接戦。
配牌、ドラ
おおよそこんな感じで、ドラ対子・自風対子の勝負手。
これはしくじれない。
順調にくっつきのシャンテンまできた。
3-6mや5-8mチーが本線だが、
同じく仕掛けている下家が3p,6pの順で切り出しており、7pは危ないなぁと思っていると…
リーチ!
さらに立ちはだかってくる、小坊主の親リー。
7pも4-7mも両方無筋。
親マン打ったらほぼほぼラス。
なんとも嫌な局面だ。
上家よ、ラス牌の8mを合わせてくれ。
そこが鳴ければ勝負になる。
そんな思いも通じず、上家から鳴ける牌はこぼれない。
ツモ山に手を伸ばすと…
ラス牌の<呼んだ??
オラァ!!
自分でラス牌のを引き入れ、
超絶テンの三面待ちテンパイ。
親リーの一発目といえど迷いなく7p勝負だ。
ツモォ!!2000,4000!!
満貫ツモで、一人抜け出したトップ目でオーラスへ。
小坊主には親かぶりをさせた。
お望みどおり、引導を渡してやった…
…かに見えた(フラグ)
オーラス、ドラは
小坊主が早めに役牌の南を仕掛けた。
何やら染め気味の捨て牌。
下の3人は超接戦で、小坊主は2000点程度で2着に上がれる。
それなのに染めだと??
小坊主には13000点差くらいつけているが
トップを狙われている可能性がある。
要警戒だ。
小坊主には満貫直撃されるとまくられる。
将来手詰まりにならないよう、
8899sの形から、8s対子落としでほぐし。
小坊主のテンパイ気配が来る前に、
ソーズ処理である。
さらに小坊主、2sをチーで打1s。
10巡目 、ざわ手牌
ツモ
形だけテンパイしたが、
ドラの中など切るわけない。
小坊主の現物の1s切り。
さらに小坊主、7sをポン
12巡目
ツモ
手 づ ま っ た
親も手出しで、黙テンは十分あるほど煮詰まっている。
親マン振込で3着落ちが考えうる最悪のケースだ。
赤が全く見えていないだけに全然ありうる。
マンズは全部親に危険。
ソーズは小坊主に危険。
ドラ中は論外。
ドラ表示牌に見えてる發対子落とし??
いやドラ暗刻の發単騎はありうる。
1枚切れのは両面待ちでしか当たらないが
7sと8sが3枚ずつ見えてる、ダブルワンチャンスとはいえど…
ここでざわさんに電流走る…っ!!
(待てよ…このダブルワンチャンスはただのワンチャンスじゃない…
小坊主がポンして出来たダブルワンチャンスだ…
つまり、当たるとしたらの形から
4枚目のが出てきてポンしたということになる。
そんなレアケース、ありえるか?)
いいや、無いね!
これで3巡凌げるぜ!!
ビシッ
「ロン」
「8000」
バ、馬鹿な…8sはともかく、
7sも持ってるなんてそんな馬鹿な…!
「ウォォォ、俺ニ、俺ニ引導を渡してクレェェェ!」
トップを取ってしまった妖怪の悲痛な雄叫びが、雀荘中に響き渡った。
※この映像は目撃者の証言からの、再現VTRです。
※徹麻明けテンションによる、実話です。
妖怪に引導を渡し損ねた、ざわさん。
今夜も…いや明日も明後日も、
その妖怪はその雀荘に居続けるかもしれない。