検証してみた:「財政収支が改善すると却って政府債務は増える」 | 空き地のブログ

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タイトルのネタ元はこちら↓

【藤井聡】「PB目標」は「財政悪化」を導いている。
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2014/12/23/fujii-122/
三橋貴明の「新」日本経済新聞 2014/12/23

プライマリーバランス黒字化目標の「罠」
http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-11968314203.html
新世紀のビッグブラザーへ 2014-12-24


両氏は現在安倍政権が掲げている「プライマリーバランス(以下、PBと表記)の黒字化目標」について、『 98年以降、PBを改善しても政府債務対GDP比(以下、単に政府債務と表記)は大きくなる一方じゃないか! 』『 日本だけ「政府債務対GDP比」ではなく「PB」を目標にしているのはおかしい! 』という主旨で批判しているようです。

後者について、「おいおい、日本を欧米のルールに染め上げるグローバル化には反対なんじゃなかったのかよ」というツッコミもあろうかと思いますが、本記事では批判の根拠になっている「PBと政府債務対GDP比の関係」について検証してみたいと思います。

※藤井参与が提示したスライドにはデータについての出典がなかったので、必要なデータは全て「世界経済のネタ帳http://ecodb.net/ )」さんからお借りしてきました。

まずは藤井参与が主張する「98年以降」について見てみましょう。

日本98年以降PB&政府債務
※PB(青線・右軸)は軸を反転させているので、「上に行くほど悪化、下に行くほど改善」ということになります。

藤井参与は、PBが改善を示している時期(図中の青矢印)においても政府債務が減っていないこと(図中の赤矢印)を根拠に「PB目標を定めることが却って政府債務を増加させている」と主張したいようです。

しかしながら、図をよく見れば05~07年については明らかに他の時期と比べて増加ペース(グラフの傾き)が違うことが分かると思います(藤井参与提示のグラフでも同様)。

では他の期間、他の国ではどうでしょうか?

1980年以降の日本
日本80年以降PB&政府債務

アメリカ
アメリカ01年以降PB&政府債務

イギリス
イギリス80年以降PB&政府債務
※それぞれPB(青線・右軸)は軸を反転させているので、「上に行くほど悪化、下に行くほど改善」

いずれも共通してPBの水準が低い期間は政府債務の増加が緩やかまたは減少し、PBの水準が高い期間は政府債務の増加ペースが急になる、という傾向が見て取れます。

そもそもの話、PBは「単年度の収支」であり、政府債務は「過去の累積額」ですので、単年度の収支がマイナス圏内で改善しただけでは累積額が減るはずがないのです。毎月2万円の借金を重ねている人が月々の借金を1万円に減らしても、借金の総額は減りませんよね?ただし、借金総額の“増え方”は緩やかになる。それと同じです。

その証拠に、上に提示したグラフの政府債務を「前年比」で表わすと、

日本
日本80年以降PB&政府債務前年比

アメリカ
アメリカ01年以降PB&政府債務前年比

イギリス
イギリス80年以降PB&政府債務前年比.jpg
※PB(青線・右軸)は軸を反転させているので、「上に行くほど悪化、下に行くほど改善」

PBと政府債務の変動ほぼ同じ動きをしていることが分かります(右軸と左軸で原点を合わせてあることに注意)。

したがって、「政府債務残高対GDP比をこれ以上増やさないこと」を目標にするということは、結局のところ「基礎的財政収支を均衡させること」と大体同じなのです。

藤井参与は「PB目標は逆効果だから設けるべきではない(→PBが悪化しようが財政出動すべき)」という主張のようですが、実証的な観点からは、PBが改善することと政府債務が抑制されることはほぼ同義であると言えるでしょう。逆に「PBを悪化させることで逆に政府債務が圧縮できた」という例は上のグラフからは見つけられないのですが・・・。

つまり、別にPB目標を取り下げる必要はなく、「どうやってPBを改善するのか?」という点こそが重要だということです。安倍政権がアベノミクスを「経済成長と財政再建の二兎を追い、二兎を得る政策である」と表現するように、経済成長こそが財政再建への道なのです。

政府債務残高対GDP比とは、読んで字の如く「政府債務残高÷GDP」です。増税によって政府債務の実額を減らそうとしても、景気が悪化してGDP成長がゼロまたはマイナスになってしまえば本末転倒ですし、国債を発行して財政出動しても、それは分母と分子を一緒に増やす行為に他ならないので、必ずしも政府債務が圧縮されるとは限りません。

【12/25 16:05 乗数の下りが間違ってたので削除】

財政出動によって増えるGDPは(ごく単純に考えれば)「財政出動した額に乗数効果を掛けた額」ですので、財政出動の乗数が現在の政府債務残高対GDP比(≒250%)より大きければ「税制出動をやればやるほど政府債務は圧縮される」ということになりますが、逆に乗数が小さければ政府債務は圧縮されるどころか膨らんでしまいます。

さて、問題は「果たして250%の乗数効果を期待できる財政出動が存在するのか?」ということですが、積極財政派はこの疑問にどう答えるのでしょうか?

【12/25 16:05 追記】

単純に、国債を発行して財政出動した分だけGDPが増える、という話ならいいのですが、実際にはPBを悪化するほど国債発行を増やしても政府債務を圧縮するような経済成長には繋がっていない、というのが日本以外の国でも観測されている事実のようです。

【追記ここまで】