あれから、15年。(72)
この日が来る事は、心の中では一ヶ月前から解っていたと思う。
わからないふりをしてたんだと思う。
頭の中から必死で追い出して、一所懸命走ったよ。
いろんな人に支えられながら、日本でもいろんな人に応援されて
それに答えたい、それが夢を叶えたい!って原動力だった。
………………
その日がとうとう来た。
E 9th st & Avenue A New York. NY 10009
AKIUE-GO.
時計の針が8時を回った。
奇跡が起こらない限り、最後になるかも知れないこの日は閉店の時間を一時間繰り上げた。
一時間繰り上げてどうなるの?
ひとつの夢の終焉を見ていたかったんだ。
きっと奇跡なんて起こらないだろう…
オレはたった一人で当時の僕の、夢の象徴であった「AKIUE-GO」と言う名の
Manhattanの端っこに浮かぶ船が、沈んで行くのを見て居たかったんだ。
8時5分。
Hannaが泣き出しそうな顔をして手を差し出してくれた。
「GO…」
「ありがとう!
Hanna、ありがとう。
オレはあと少し、店開けてるよ。」
Hannaは次のバイトがあるので、帰らなくてはいけない。
Hannaの手を握りながら、何か気の利いた事言わなきゃ、と思ったから
「オレね、もう数日はNYに居るから…」
泣きそうになってね、それしか言えなかったよ。
………………
Hannaが帰って、オレは一人になった。
物音ひとつしないAKIUE-GOの中。
これまで起きた様々な出来事、
そして様々な出逢い。
ゆっくりとゆっくりと想い出してた。
初めて降り立ったJFK空港。
最初に暮らしたアッパーイーストのオンボロアパートメント。
一緒にNYでのオーディションを闘った仲間達。
グランプリを獲ったあの日…
内装屋のおじさん、ドン、アリス、リナ、アン、Cigさんとヘレン、Mitsu、ブラッド…
沢山の暖かい人達。
…そして、Hanna。
みんなの顔が浮かんで来る。
いろんな出逢いと、いろんな出来事があった。
オレはこの地で、確かに生きたんだ。
ここで、ピンク色のAKIUE-GOをオープンしてたんだ。
ふいに、店のドアが開く音がした。