「あれから、15年。(73)」
NYに来てからいろんな出逢いと、いろんな出来事があった。
オレはこの地で確かに生きたんだ。
ここでピンク色のAKIUE-GOをオープンしてたんだ。
初めてアメリカ、このNYの地を踏んだあの真冬の日。
グランプリを獲って、このAKIUE-GOをOpenした春。
共に闘った仲間達はみんなとっくに日本に帰っちゃったけど、
その後もNYの夏をがむしゃらに走った。
時に挫けて、逃亡もしたっけ…
いろんな事がある度に、いろんな人達に助けられた。
いろんな出来事が、いろんなシーンがオレの頭の中を過る。
ふいに、店のドアが開く音がした。
入り口を見ると…
Hannaが。
はにかみながら、照れくさそうな笑顔を浮かべてるんだ。
「あれ?
Hanna、忘れ物?
次のバイト、時間大丈夫?」
「ちょっとね。」
ショーウィンドウを指差して、吊るしてあった
浴衣地の淡いグリーンのワンピースを指差すHanna。
「あれをね、買いたいの…」
その浴衣地のワンピースは、ストックも売り切れちゃって
数日前にHannaと徹夜して、大急ぎで縫ったワンピースのうちの一着。
「ああ…」
オレはワンピースをハンガーから降ろすと、丁寧に畳んだ。
「Hanna。
今日はきっとAKIUE-GOの最後の日。
Hannaがきっと、AKIUE-GOの最後のお客さん。
Special Serviceだよ☆
75%OFFプライス!」
「GO。
No、No!」
Hannaは定価で買うって、絶対に譲らなかった。
頑固だなぁ、Hannaは。
「本当はもっと買いたいの。
少しでも売り上げに協力したかったの。
でも私はドイツからの留学生であまり余裕ないから…」
これ、買ったらHannaの何日か分のバイト代飛んでしまうのに…
Hannaは照れくさそうに、オレから紙袋を受け取って
そして手の甲で頬を拭った,
「変ね…
ワザビ、食べてないのに」
Hannaはワサビをワサビと発音出来ないんだ。
それでも大好きみたいで、いつも涙流しながら
笑いながら食べてたっけ。
結局、HannaがNYのAKIUE-GOの最後のお客さんとなった…
#AKIUE-GO #Hanna #最後のお客さん