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『ひゃあ・・・あっ・・・まってやっぱまだ・・・』
『こら、隠すな相葉。往生際悪いぞ。
何するか知りたいっつったのはお前だろ?』
そういえば好奇心は猫の天敵だったなって、先生の言うことは時々難しくてわからない。
好奇心なんかじゃなく、オレはただ、あなたのことが好きなだけだよ?
一緒に居たくて・・・触れてみたくて・・・
ほんの少し他のクラスメイトよりもあなたに近い立ち位置が、こっそり誇らしくてそれだけで自慢だったくらい。
『で、でもっ・・・いきなり服全部は・・・』
困るよ。心臓がパンクしちゃう。
放課後の居残りで、話し出したらとまらないあなたのつやつやした唇を見つめてただけで、その夜そーとーえっちな夢をみれてたオレだよ?
『・・・俺も、余裕あるわけじゃねぇから。』
『あ・・・まってってば、せんせ・・・』
既に乾いた、ふわふわの茶髪が頬にあたる。
後頭部を支える大きな手に頭を仰け反らされると、さらけ出された首筋にかぷりと歯が立てられた。
『あーもーお前、煽んのは上手なのにな?
・・・半端なのは逆効果だから、拒みたいならもっとしっかり抵抗しなさい。』
ちがうよ先生、拒否したいわけじゃない。
全部はじめてで、怖くて、大切だから。
怖じ気付いて逃げ出したい気持ちと戦ってるからちょっと時間が欲しいだけ。
でも、オレにとっては一大事だけど、あなたにとっては取るに足りないことなんだよね?
『そんなに怯えなくても、手加減くらいはしてやるつもりだけど・・・
・・・で、なに?お願いって言った?』
眉を寄せた先生が拭い取るように、ぺろっと唇をなめとった。
力の入らない手首はまとめられて、指の先に、関節に、こぼれた涙の先に・・・
『なぁ、黙ってちゃわかんないだろ?
怒ったりしないから言ってみなさい。』
馬鹿になった涙腺のおかげで先生の唇は渇く間もなく、幾つもキスが落とされる。
血色の良い先生の唇はやわらかく、なめたらきっと、イチゴみたいに甘酸っぱい味がするんだろうなって勝手にずっと・・・
授業中隙があれば盗み見てたようにその紅さに見とれていると、怖い顔した先生に睨まれて、
『相葉、言いたいことがあるなら早く・・・』
『・・・名前で、呼んでほしいの。』
捕えられて、あなたの手が繋がれたままの両手をあなたの唇までそっと運び、潤った縁にそって恐る恐るなぞってみた。
『雅紀って、オレのこと・・・
ふたりの時だけでいいから・・・呼んで・・・?』
『・・・それが、お前のして欲しいこと?』
ルール違反を咎めるような低い声。
ややあって、クスリと笑い声をたてた先生の顔が見れずに目を逸らすと、
『・・・危なっかしい奴だなホント。
名前でなんか呼んだら俺、ますますお前のこと自分のモノみたいに扱うけど。』
良いのか?って首を傾けた先生の瞳が熱っぽく潤んでいるのを見たら、素直に頷く以外オレにできることなんて・・・
『・・・っ、んぅ・・・!?』
『・・・ごめんな?
ファーストキスくらい残しといてやろうと思ったけど、もう辞めだ。』
嘲るような慈しむような、悦いしれたような口元がキュッとキレイな弧を描くと、
『な・・・い・・・今っ、舌、入って・・・』
『当然だろ?
ふふっ、お前って口の中まで甘いんだな。』
初めてのキスはイチゴでもレモンでもない、苦みばしったブラックコーヒーの味だった。
つづく