誤報の混乱 | 有川ひろと覚しき人の『読書は未来だ!』

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『誤報のシステム』にてご紹介した混乱について、回答をこちらにまとめておきます。

混乱が拡大した原因の一つとして、記事の本来の趣旨と違う視点が多数流入してきたことが考えられると思います。
私の呼びかけは
「町のリアル書店さんや本に思い入れがある方」に対して、
「価値を認められる商品に出会ったときは、新刊書店のご利用をご検討ください」というものだったのですが、
Yahoo!ニュースの扇動的な引用のため、元々呼びかけの対象にしていなかった方々の視点が入ってきてしまったのです。

・書店に思い入れがない人
・紙媒体に思い入れがない人
・電子書籍が主流になってほしい人
・クリエイター支援としての購入に価値を見出せず、商品としての単体価値のみ認めるという人
・流通、販売形式を改善するべきという人
・景気問題に言及する人etc

ざっと考えただけでもこれくらい。
中には出版という文化形態自体が滅びてしまえ、という意見まで。

まずは自分がどの視点からテキストを見ているかを意識しつつ、他の観測視点もあるということを思っていただければ幸いです。
その上で、

・ご自分の視点では首肯できないことでも、他の視点の方からは首肯できる場合がある
・一作家ではお答えしかねる問題もある

ということをご理解いただければと。
特に流通・景気問題については一作家の分を超えます。
私は現状のシステムの中で仕事をする一人という立場からの発信をしておりますので、そのことをお含み置きくだされば幸いです。

私は自分が子供の頃に書店さんで夢をたくさんもらいました。
たくさんの本と出会える空間で心惹かれる本を探し、家につれて帰る幸せをもらいました。
それと同じ幸せを、未来の子供さんにも残したいと思っています。
これは作家として私が仕事をする個人のモチベーションです。
私は自分の大切なもののために仕事をしたいと思っており、書店さんがその重要な一つなのです。
書店さんの価値・本の価値を認められないと仰る方に価値観を押しつけようとする発信ではなく、同じように書店さんや本を愛してくれる人に一つの気づきを投げかけたくての発信です。
他のものを愛している人にこちらを振り向け、顧みろという投げかけではないということをご理解いただければと思います。

そのうえで以下、今回見かけたご意見についてのご回答をまとめますので、ご参照ください。

①「買いたいと思えるような本を出すべき」
叱咤激励として受け止めさせていただきます<(_ _)> 
いいものを出す、販売の努力をする、というのは大前提のお話です。
好みの問題はあれどクォリティを保つことは必須の義務で、それを怠った本を容認する趣旨ではないことをご理解いただければと思います。

②「本が高いから悪い」
全ての物価が上がっている現状で本だけ廉価をキープしろというのは経済の原理原則から「ご無体な( ;´Д`)」と申し上げるしかありません。
全ての商品には原価があります。人件費もあります。
出版に携わる職業人はボランティア集団ではなく、出版は奉仕ではないということをご理解ください。
ただし、出版に関わる人々が常に適正な価格を維持すべく、現在のシステムの中で最大限の努力をしていることはもちろんのことです。

③「新しいビジネスモデルを模索すべき」
申し訳ありませんが、一作家の分と能力を超えます。
新しいビジネスモデルを作れるほどの能力があれば、さっさと出版業界のビル・ゲイツになっております。
なれるものならなりたいですが、残念ながら私には既存の流通・制作システムを変える起業家の才能はありません。

④「図書館・中古本否定か?」
図書館や中古書店の利用を否定していないblogを過去にも書いております。
「気に入ったものについては新刊書店のご利用をご検討ください」というお話です。

⑤「有川浩は電子書籍を出していないから駄目だ」
Kindleを出していないだけで、他の電子書籍は展開しております。
ただし、私が「紙をめくる文化」を愛しており、「めくり」を計算にいれた紙面上の演出も実際に多用していること・紙の本を扱うリアル書店さんを優遇していることから、電子書籍は最優先される媒体ではありません。
紙の本が生き残っているうちは、紙の本を優先しますし、紙の本と「めくり」の文化が生き残れるように努力したいと思います。
電子書籍について私個人のスタンスも、下記blogの中に表明してありますので、ご参照ください。
http://ameblo.jp/arikawahiro0609/entry-12111692997.html

⑥繰り返しになりますが、「書店さんや本に思い入れがあり」、「未来への投資にご賛同いただける方への一意見」です。
他に投資したいものがある、という方を非難するものではございませんので、目指すものが違う方はご自分の選択を。ご自分の好きな物を育てて差し上げてください。
出版業界も、価値観を共有できる方々に投資して頂ける物を作れるよう常に頑張ります。

最後に。
自分と違う意見をすべて殲滅しなくても、世界には様々な価値観が共存できると思います。
私の意見はその「様々」の一つと考えていただければ幸いです。


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