『ガソリン生活』(伊坂幸太郎/朝日文庫) | 有川ひろと覚しき人の『読書は未来だ!』

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えー、私の本(『空飛ぶ広報室』(幻冬舎文庫)も出てるんですが、何故かそのタイミングで他人様の本を紹介してみんとす。

『ガソリン生活』(伊坂幸太郎/朝日文庫)

これも湊かなえさんの『物語のおわり』と一緒ですなぁ、すっごい面白いのに版元が新聞社系のために営業の粘りが少なく、単行本時は早めに平台から消えてしまったという、大変大変惜しくて悔しい本です。
加えて、「売れている人は、もっと売れたらいいんです」の法則も同じく。

仙台在住の高名な女優が交通事故にて急死! 実はある兄弟が事故の直前にその女優をひょんなことから車に乗せていた!? 果たして事故の真相は? そして兄弟を様々な謎がめぐり始める――事故の語り部は、何と兄の愛車「緑デミ(みどデミ)」こと緑のデミオ。

今、私が読後の記憶を頼りに書いたあらすじですが、何しろ私の記憶頼みですので、詳細は公式発表のものをご参照ください。
無機物が事件を語るという手法は『長い長い殺人』(宮部みゆき/光文社文庫)がありますが(こちらも名作)、『ガソリン生活』は「緑デミ」が確固たる主人公であるという点で大きく個性を出していると言えましょう。
ずーっと「緑デミ」の一人称なんです。まさか物語が車の中だけでずっと展開するわけもないのに、ずーっと「緑デミ」喋りっぱ。それなのに謎は推移し、しかも解決に向かって軽やかに息も吐かせず走行する。
これだけで伊坂幸太郎の無茶な筆力が分かろうというものですが、道行きがとにかく楽しいんですな。
そしてかわいいんですな。
筆力云々、小賢しい分析が吹っ飛んじゃうくらい。

人間が「人類」という種であるように、彼らは「車輪の一族」なのです。
そして人格者が尊敬されるように、車の中にも尊敬される「車格者」がおり、種として近いのに猿とは言葉が通じないように、二輪車とは言葉が通じない。
それでは電車は?――それは本書を読んでのお楽しみ。
『コロボックル物語』シリーズのように、現実の人間社会の中に、人間が知らない不思議な生き物がさりげなくまぎれ込んで暮らしているような、一種のエブリデイ・マジック型ファンタジーとしても、楽しめます。
私たちが何気なく利用している車に、魂が宿っていると思うと、愉快ではありませんか。
いつも駅まで乗っている自転車だって、「※○×#!!!」なんて喋っているかもしれません。
(『コロボックル物語』シリーズも、最新作『だれもが知ってる小さな国』から初代『だれも知らない小さな国』を再キャッチアップする形で発売中です☆)

物語を推移させる人間が「緑デミ」から降りていってしまうと、「ああ~、続きどうなるの、車の中で話してよ~」と読者も「緑デミ」と一緒にじたばたします。
でも、「車輪の一族」の世界の神は、善良な「緑デミ」に、きちんと気になる人々の運命を教えてくれるのです。

本書を読むと、車がとてもかわいらしい生き物に思えてきます。
例えば、交通事故を起こす車は、恐怖のあまり失神してしまっているのだそうです。
かわいい車を失神させるような乱暴な運転をしてはならないと、きっとこの物語を読んだ人は皆さん思うことでしょう。
それを思えば警察庁で交通安全推進図書として表彰されてもいいのでは?

そして、ちょっぴり切ない真実にも向き合わされます。
車は、どんなに大事に乗っても、持ち主の一生に添い遂げることはできません。
買い換え、そしていずれは必ず待ち受ける、廃車――「緑デミ」は、愛すべき兄弟の未来に、ずっと立ち会うことはできないのです。
さあ、悲劇の女優の運命やいかに。
愛すべき兄弟の運命やいかに。
どの謎も、とても魅力的で惹きつけられます。
しかし、私は、兄弟を慕い、私たちにずっと事件を語ってくれた、「緑デミ」くんの運命が、一番気にかかるのです。

「緑デミ」くんの運命も、もちろん本書で解き明かされます。
きっと、皆さんは、「緑デミ」くんを思って、幸せな気持ちになることと思います。

単行本では悔しくも早めの店じまいとなってしまいましたが、ちょうど今!
手に入れやすい文庫で!
店頭にて大展開中!
単行本時に巡り会えなかった皆さま、ぜひぜひ書店へお迎えに!
伊坂幸太郎単行本新刊としては「陣内さん、出番ですよ」とばかりに『サブマリン』(講談社)も発売中ですよ~。

そして、ついでに『空飛ぶ広報室』も連れて帰ってくださると、とても嬉しいです(笑)

追記
『空飛ぶ広報室』、解説は鷺坂室長のモデルになってくださった荒木正嗣空将補(航空総隊司令部幕僚長)にお願いしました。
たいへん熱く当時のことを振り返ってくださいました。
(自分の本を語らなさすぎですと関係者に突っ込まれたのでちょびっとセールスポイント追加)

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