同一化願望(※追記あり) | 有川ひろと覚しき人の『読書は未来だ!』

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「私と同じものを好きでいて」

「私と同じものを嫌いでいて」

「私が支持しているものをあなたも支持して」

「私が支持していないものはあなたも支持しないで」

更には、嗜好が自分と違ったときに放たれる、

「がっかりです」

がっかりです、が更に強くなると、

「見損ないました」

 

これらは、同一化願望から発されることが多い言葉だと思っています。

そして、同一化願望が発生するのは、嫌いな人ではなく、好きな人であることが、大変な不幸だと思っています。

 

自分と嗜好が100%一致する人は、この世に存在しません。

人にはそれぞれの趣味嗜好、主義信条があり、それは反社会的な活動を伴わない限り、完全に自由です。

誰も個人の趣味嗜好、主義信条を強制することはできない。

しかし、「強制できない」代わりに、「同一化願望」をやんわり投げかけてくる人は、かなり頻繁に存在します。

 

自分の好きな人に、自分と同じ趣味嗜好、主義信条でいてほしい。

それは無邪気な欲求かもしれませんが、その欲求を向けられた人にとっては、精神の毒です。

「人に嫌われたくない」「できることなら好かれたい」という、人間の根源的な欲求に付け込み、その人の個性を「自分好みに変質させようとする」毒です。

「自分好みに変質させる」、それは支配とも言えるかもしれません。

発する本人にそのつもりがなくても、相手には毒になり、支配になってしまうことがあるのです。

 

無邪気な欲求を投げかけてくる方は、無邪気であるがゆえに、拒絶されると

「ちょっと言っただけなのに」と仰います。

しかし、毒を投げかけられた側は、そうは行きません。

やんわりとではあっても自分の変質を求められたほうは、やんわりとした毒に精神を汚染されてしまいます。

その毒をどのように中和するかは、毒を受けた側の問題です。

無視するだけで中和できる人もいます。

きっぱり距離を取らなくては中和できない人もいます。

生身のお互いを知らないネット上では、相手がどのタイプかは分からないのです。

 

だからこそ、ネット上で誰かに対して同一化願望が含まれた言葉を投げかけることには、注意と覚悟が必要だと思います。

一言で相手に拒絶されるかもしれない。

その覚悟を持って、自分が投げかけようとする言葉を精査しなければならないと思います。

 

好きな人と同じものを好きになりたい。

好きな人の好きなものを理解したい。

 

それは、度を超さない限り、健全な同一化願望です。

 

好きな人に私と同じものを好きになってほしい。

 

これも、度を超さない限りは、好きな人に好きなものを勧めたいという微笑ましい望みです(強制したらアウトです)。

しかし、

 

好きな人に私と同じものを嫌いでいてほしい。

 

それは、暴走する同一化願望であり、相手に投げかけてしまった時点で、相手に「自分を支配しようとする毒だ」と思われても文句が言えないものになってしまいます。

特に後者は、好きな人を遠ざけてしまう可能性のほうが高いものです。

 

私は、どんなにファンだと言われても、その同一化願望を嗅ぎ取った瞬間に、全力で逃げます。

「がっかりする自由がある」と私に直接仰る向きがありました。

私は「がっかりされないために自分が無意識におもねってしまう」ことを恐れます。

すみません。

 

追記

ある作家さんとのやり取りで重要な示唆をいただきましたので、追記。

「私ならこれで傷つかないもの」

「私ならこれで拒絶(ブロック)しないもの」

というのは、「それで傷つくあなたがおかしい」という婉曲な攻撃でもあって、

やっぱり私はこれも無自覚な同一化願望(同調圧力)の一種だと思います。

そういうことを投げられて「私の心が狭いのか?」と迷って更に傷ついてしまう人もいるかと思いますが、迷う必要はありません。

その人がタフ(というか痛みに鈍感)であることに合わす必要も、罪悪感を感じる必要もない。

私はそう思います。

 

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