怠惰なインターネット | 有川ひろと覚しき人の『読書は未来だ!』

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高知県立大学で大学図書館の蔵書が3万8000冊処分されたということについて、私のTwitterのほうへフォロー1(私のみフォロー)、フォロワー0の即席捨てアカウントと思われるアカウントの方からアプローチがありました。

ざっくりとした内容は以下のような感じです。

 

「高知県立大学で現代の焚書が行われました」

「正式なご連絡は出版社を通すべきだということは分かっています、でも風化してしまうのが不安なのです」

「有川先生に意見を述べてほしいのです」

 

蔵書の処分についてどう思うかについては、発言致しません。

疑義がある人は、自分の信念に従って行動を起こせばいいだけのことです。

(個人的には、図書館に類する機関が増え続ける蔵書の全てを永遠に保管し続けることは「物理的に」不可能なので、「物理的不可能」を解消するための枠組み――行政による余剰蔵書の引き取り・保管など――から検討しなくては解決しないと思います。それは解消できるなら解消するに越したことはありませんが、解消するための予算・人員・時間を考えると一大事業になってしまいますので、一個人の手には余る課題であると思います)

 

私としてはむしろ、匿名の即席アカウントで知名度のある人間を焚きつけて「何とかしてもらおう」という怠惰な意識のほうが恐ろしいと思いました。

一面識もない第三者に、社会的責任を伴う発言を要求しておきながら、この方の支払う代償は「アプローチ用の即席アカウントを作ること」だけです。

自分は一切現実に対して責任を取る覚悟がないのに、「この人なら影響力があるであろう」と勝手に選定した人物に対して、正式な窓口を通すことすらせず、ネットでちょちょいと「社会的責任を伴う声明を出せ」と要求することについて、私は「怠惰」以外の感想を持ち得ません。

ご自分が危機感を覚え、現実に対して行動を起こそうとするなら、やるべきことは作家の煽動ではありません。

まずは該当の機関に問い合わせるなり、問題についての情報を集めるなりして、自分なりの視座を持つことです(情報は偏向しないように多角的に取ることが望ましいと思います)

そのうえで該当の機関、あるいは行政、あるいはその地区の政治団体、事務所、政治家など、「問題に対する解決能力がある」と思われる対象を自分で選定し、自分の責任において意見を届けることです。

ご自分の思うところに対しては、どうぞご自分で行動を。

影響力があると思う相手に「こうしてほしい」と安易に訴えることは、ご自分の魂を脆弱にすることにしか繋がりません。

ドラえもんならのび太くんのために便利な秘密道具を出して助けてくれるかもしれませんが、のび太くんだってたまにはドラえもんを頼らずに頑張るのです。

そして、私は誰のドラえもんでもありません。

「でも読者の声で本を書いたりしたじゃないか」と仰る向きもあるかもしれません。

しかし、私を動かした読者の方は、正式な窓口を通じて、匿名ではなく実名で、自分の責任において門を叩き、また、私を動かすだけの「何か」を持っていたのです。

 

私は最近では「世界一のクリスマスツリー」について、本人証明をつけた上で意見を表明しましたが、

「『阪急電車』などを書いておられる関西在住の作家さんとして、『世界一のクリスマスツリー』について意見を表明してほしいのです」

などという要求をしてきた方はただの一人もおられませんでした。

ということを、この怠惰な要求に対する回答とさせていただきます。

 

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