イガイは意外な優れもの | 医薬翻訳のアスカコーポレーション 社長ブログ

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大阪北浜、東京田町にオフィスを持つ医薬・バイオ分野の語学サービス会社 アスカコーポレーション社長 石岡映子のブログ。

Science10月27日号に、「イガイ」という貝から、柔軟性は損なわずに強度を上げたポリマー系材料の新しい製造方法が見つかった、というユニークな報告が発表された。Toughening elastomers using mussel-inspired iron-catechol complexes(イガイ属にインスパイアされた鉄-カテコール錯体を使ったエラストマーの強化)。

 

「ムール貝」として知られる(ムラサキ)イガイ、パエリアの時に食べる程度で、「カラス貝」などとも呼ばれ、存在感は薄い。実はその貝、タダの貝ではない。どんな荒波に流されないほどの強力な粘着物質で岩に付着している。荒波の中、岩に付着しているムラサキイガイは大人1人の体重を支えることができるほど、その特性に注目した研究が今回の著者だ。

 

研究者たちは、カテコール類という有機化合物を改変することで、イガイの粘着特性(とりわけ足糸の糸と付着盤)に似た極めて伸縮性の高いポリマー系材料を開発したのだ。この改変には鉄分子を添加することで実現し、鉄分子によって、未処理の場合に比べて770倍の剛性と92倍の強度を持つ耐荷重性の可逆のネットワークが生まれ、強いが伸縮性もある素材の製造が可能になったという。この方法は既存のポリマー強化機構と組み合わせることが可能で、建築・生体医用・航空宇宙材料での幅広い応用への道が開かれる、という。

原文は、http://science.sciencemag.org/content/358/6362/502

 

今回の研究の対象になったのはムラサキイガイ、日本では日本海沿岸で採れるのだと。ムール貝より大振りで、酒蒸し、貝ごはんとして美味しいらしい。これらの貝には、「足糸」と言われるタワシみたいな繊維状のものが生えていて、これで岩礁に固定して、プランクトンを食べて成長しているのだと。 このひげ状のものが今回のScienceの論文の接着剤のヒントになった。


このイガイから強力な接着剤の発見につながった、とScienceに以前報告されていたし、ナメクジから傷の治療のヒントを見つけた、という論文もあった。

 

科学と言えば、宇宙や、重力波、遺伝子がイメージされ、難しいと考えがち。
でも、イガイやナメクジからがいかに科学に寄与するのか、という発表は面白い。そんな論文を選ぶScienceもにくい。