歯医者のチュー先生は、とても腕利きで、いつも患者が絶えません。
自分より大きな牛だって、長靴を履いて、口の中に入り、やさしくドリルを使って治療します。
でも先生とて、ネズミです。
危険な動物の治療はお断り。
その筆頭は猫ですね。
ある日、きつねの患者がやってきます。
きつねは門前払い。
が、痛さのあまり、涙をぽたぽたとたらすので、つい同情して、治療を請け負うことにしました。
べそをかいていたきつねは、治療が進むうち、おいしそうなネズミが口の中にいることに気づきます。
ぱく!
と食べたい衝動に、抗いきれません。
治療最後の日、いよいよきつねがチュー先生を食べようとすると、
「ほんのひと塗りで、永久に歯が傷まなくなる薬をぬってあげましょう」
そう言って、チュー先生は、糊を塗って、きつねの口が開かないようにしてしまいました。
いわゆる、力の弱いものが、強いものを、知恵でやっつけるお話ですが。
情けをかけて、痛みから救ってくれた恩人を、痛みがなくなるや食べようなんて、ほんとにきつねは恩知らず。
このきつねは、なかなかダンディーで、身だしなみもいいし、チュー先生を食べるときは、辛口の白ワインと一緒に、と妄想を膨らましています。
糊で口をくっつけられてしまった後も、威厳を保とうと、すっくと階段を降りていきます。
その紳士ぶりが、それでもきつねをちょっぴり憎めないキャラにしています。
作者のウィリアム・スタイグさんは、60歳を過ぎてから絵本を描き始め、この絵本はなんと75歳のときに描かれたんですって。素晴らしいですね。