ちいさいくまくんの おとうさんにとって そのとしは、とてもつらいとしでした。
しごとをなくし、あたらしいしごとを みつけることが できなかったからです。
もう、かぞくをたべさせるのに やっとのおかねしか のこっていませんでした。
なんだか身につまされてしまう冒頭文ですが、そこはさておき。
この本は、絵をじっくり見ると、何倍も楽しめます。
ちいさなくまくんが、家族全員のクリスマスプレゼントを用意して、ツリーの下に置いてくれた、という微笑ましいラストシーンなのですが。
それまでのページに、くまくんがクリスマスプレゼントになりそうなものを見繕っているのが、ひっそりと描かれています。
読んでいるときは、気づきませんでした。
最後まで読み終わり、読み返して、その仕掛けに気づきます。
おかあさんが、ミシンをかけているとき、取れてしまったボタンを、ミシンの下に隠れて、拾っている、ちいさなくまくん。
おとうさんが、ツリーを作る枝を探しているときに、風に飛ばされてしまった帽子へと忍び寄る、ちいさなくまくんの影。
おにいさんが、木の枝のひっかけて、タコを破いてしまったときも、おねえさんが、ブランコのポールに傘をかけて忘れてしまったときも、くまくんはそこにいたんです。
「ぼくのたこだ、きにひっかけて、おっきなあな、あけちゃったんだ。これ、あたらしいのみたいだよ!」と驚くおにいさん。
「サンタさんは、かさがもどってこないかなあ、ってわたしがおもっていたのを、ちゃーんとしってたのね!」と喜ぶおねえさん。
「どうやって、サンタは帽子をみつけたんだろう」と不思議そうなおとうさん。
なくしてしまったボタンを、まるで宝石をのせるかのように、手のひらにのせる、おかあさん。
ちいさなくまくんへのプレゼントは、使い古したグローブですが、自分でぴかぴかに磨いたんでしょうね。
ツリーのまわりには、小さな足跡がありました。
「このサンタクロースは、きっと、すごーく、ちっちゃかったんだよ」
くまくんの家では、この年のクリスマスが、いちばん素敵だったと、いつまでも語り継いだということです。
いちばんちいさい、末っ子のくまくんが、家庭の事情を察して、みんなのプレゼントを用意する、一歩まちがえると涙ぐましい話になってしまいますが、温かい気持ちになれるのは、かわいらしく、ほんわかした絵のおかげでしょう。