チムとゆうかんなせんちょうさん | アトリエぽーぽー

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『アトリエぽーぽー』は、創作を楽しむ絵画教室。
講師あけやまひかるは、お月謝袋やレターセットなど、クラフト製品の販売も行っています。
このブログは、生徒さんと保護者さまへ発信していますが、
絵や工作について、みなさまのご参考になれば幸いです。

チムとゆうかんなせんちょうさん

海岸の家に住んでいるチム坊やは、船乗りになりたくてたまりません。

仲良しのボートおじさんが、昔船乗りだったので、たびたび航海の話を聞かせてくれます。

チムは、すっかり船に詳しくなり、知識を披露しては、家族を驚かせます。

しかしお父さんもお母さんも、船乗りになるには、まだ小さすぎる、と取り合ってくれません。


チムはある日、家を出て、汽船に忍び込みます。

が、すぐ船員に見つかり、船長さんのところへ連れて行かれてしまいました。

船長さんはものすごく怒り、チムは、バケツとブラシを持たされ、甲板掃除を命じられました。


チムは最初の日こそ、あまりのつらさに、もう家出したりするもんじゃない、と後悔しましたが、やがて船の生活に慣れていき、船員たちやコックさんに、気に入られました。

船長さんでさえ、チムの働きぶりを評価し始めたのです。


そんなある晩、すごい嵐が来て、海は大荒れ。

真夜中にずしんと恐ろしい響きがしたと思ったら、岩にぶつかり、横倒しになりました。


船が沈むぞー!


船員たちは次々にボートに乗り移ります。


しかし、怯えて縮こまっていたチムは取り残されてしましました。


もうひとり、船に残っている人がいました。

船長さんです。

自分の船を捨てずに、がんばっていたのです。

「やあ、ぼうず。こっちへこい。なくんじゃない。いさましくしろよ。わしたちは うみのもずくと きえるんじゃ。なみだなんかは やくに たたんぞ」

船長さんに言われて、チムは涙を拭き、もうびくびくするもんかと思います。


ふたりが覚悟を決めたとき、救命ボートがやってきました。


が、これで助かったというわけではありません。

荒れ狂う海を、救命ボートで漕ぎ抜けなくてはなくてはならないのです。

大きな波は救命ボートをコルクのように弄び、みんな身体の中までずぶ濡れになりました。

誰も彼も、びしょぬれで、こごえきって、くたくたになった頃、幸いにも港に着いたのです。


こうして、ひとりの、ちいさい船乗りが誕生しました。


子どもの、職業に対する夢や憧れを育てていくのは、大人たちです。

大人たち、キリッとしようよ!

と、鞭打たれた気持ちになりました。