昔あるところに、とうべいという、飴屋がありました。
ある日の真夜中に、若い女が来て、飴屋の戸をたたきます。
一文銭ひとつ差し出し、「飴を分けて下さいまし」。
とうべいはぎょっとしましたが、しかたなしに、飴を渡してやります。
次の日も、次の日も、女はやってきます。
真夜中じゃなくて、昼間にくればいいのに。
7日目の晩。
「実はお金がなくなりました。けれど、飴がないと困ります。どうか 飴を分けて下さいまし」
女は着物の片袖をちぎり取って、言いました。
飴を渡してやった後、女の後をつけてみると、奥深い山寺の、墓場につきました。
墓場からは、おぎゃあ おぎゃあと、赤ん坊の泣き声が。
怖くなったとうべいは、山寺の和尚さんをどんどんと叩き起こします。
和尚さんは、すぐにわけがわかりました。
数日前、臨月の女の人が、この寺で亡くなったのです。
和尚さんは気の毒に思って弔い、お墓に、産着と一文銭6枚、埋めてやりました。
墓を掘り起こすと、はたして元気な赤ん坊が出てきました。
女は墓の中で出産し、幽霊になって、お乳のかわりに飴を与え、子育てしていたのです。
和尚さんは、この子を引き取って育て、この子は立派なお坊さんになりました。
この本を、読み聞かせにどうかな、と娘たちに尋ねると、
「かわいそうな話だからダメ」
と言われました。
そうですね。
いい話ですが、可哀想だから、やめておきます。