唾液ウイルスで疲労測定 | にゃんころりんのらくがき

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近藤一博氏(55)
東京慈恵会医科大学教授

│1985年大阪大医学部卒。同大微生物病研究所助手、米スタンフォード大、大阪大助教授などを経て、   

│2003年から現職。ウイルス医科学研究所取締役。
│半身浴や軽い運動が疲労回復にいいことは、唾液で疲労度を調べる実験で確かめている。

│「ただ、自分が実行する時間がないんです」


 突発性発疹などを引き起こすヒトヘルペスウイルスを、尊敬の念を込め「この世で最も賢いウイルス」と呼ぶ。


 ほとんどの人は、このウイルスに感染しているが、ウイルスは普段は静かにしている。人間が疲労をため込むと、いち早く逃げ出そうと唾液中に出てくる。この「ずる賢さ」を利用。唾液中のウイルス量を調べるだけで、疲労度を客観的に測定する検査法を2008年に確立した。


 労働者の健康管理に

 仕事や運動で疲れるのは当たり前だが、当たり前すぎて研究が進んでいなかった。まず、疲労と疲労感は異なる。体が疲れていても、達成感ややりがいがあれば疲れを感じない。


 昨年、テレビ番組の企画で有名タレントの唾液を調べた。ウイルスの量が正常範囲の10倍以上検出された。本人は「全然疲れを感じていない」と強がったが、数日後、過労で緊急入院した。「疲労は、生活習慣病やうつ病など万病のもと。客観的な検査が広く行われれば、労働者の健康管理にも生かせる」と強調する。


 疲労が起こる仕組みも解明されつつある。「疲労因子(FF)」と呼ぶたんぱく質は、運動したマウスの体内で増え、FFをマウスに注射すると疲れて動かなくなる。逆に「疲労回復因子(FR)」は、FFの量を下げる効果がある。


 疲れていても働くことが美徳とされる日本では、疲労回復は社会の大きな関心ごとだ。だが、「ほとんどの栄養ドリンクは、アルコールやカフェインで疲労感を隠しているだけ」と明かす。FFやFRの量を調べれば、本当に疲労回復効果のある物質の発見につながるかもしれない。実際、多くの企業が相談に来る。


東京五輪への夢

 今、注目しているのは7年後の東京五輪・パラリンピックだ「ドーピングにならない、疲れを最小限に抑えられる食品や薬を開発すれば、日本チームの好成績につながる」と夢を描く。


 昨年、土日も休まず研究を続けた結果、ウイルスが原因の帯状疱疹を発症した。以来、「日曜は休み、ひたすら寝るようにしている」というが、研究の進展が気にかかる。「抗疲労物質が見つかったら、まず自分が試すつもり」と苦笑いした。(木村達矢)


読売新聞 2013年10月10日
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http://www.fuksi-kagk-u.ac.jp/guide/efforts/research/kuratsune/h22/pdf/h22-bun11.pdf