震災生き抜いた7匹 | にゃんころりんのらくがき

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交遊録 杉本彩②


 うちで暮らす10匹の猫たちの中には、東日本大震災で被災した猫もいます。


 宮城県で引き取った7匹のうち6匹は、地元のボランティアさんが津波で骨組みだけ残った家で保護しました。震災後、行政や民間の動物収容施設はどこもいっぱい。支援物資を届けた帰りに猫たちの行き先が見つからず困り果てていると知り、引き受けました。


 大震災を生き抜いた猫たちは、みんなおびえきっていました。私に警戒の目を向け、体を硬くして身をを寄せ合って。人と同じように心に深い傷を負っていると感じました。


 3匹いたメス猫は妊娠していて、すぐに出産ラッシュを迎えました。小さな体の花子が1匹だけ産んだ子猫がコタロウです。マイケルと名付けた被災猫と顔がそっくりで、彼が父親ではないかと思っています。


 会社のスタッフの力も借りて、子猫たちにミルクや離乳食を与え、遊べる環境を整えました。被災した猫の家族は、多い時は15匹にも増え大変でしたが、小さな命の誕生と成長に、喜びと幸せを感じたものです。ただ、母猫の風邪が子猫にうつり、悲しい別れも容赦なくやってきました。宮城から来た7匹のうち、4匹がうちに残り、3匹は新たな飼い主さんのもとで暮らしています。


 「月子」と名付けた猫の元の飼い主が今春、奇跡的に見つかりました。私が撮影した自宅の映像に月子が映り、テレビ番組で「被災地から来たちょっと臆病な子です」と紹介したのがきっかけです。家族でその映像を録画し、何度も確認したそうです。そして「間違いなくうちの猫です」とお手紙をくださいました。


月子は以前、「まり子ちゃん」としてかわいがられていたようです。飼い主さんが編み物をする傍らで、まり子ちゃんが昼寝をしていた平和でのどかな日常。それが津波で突然奪われたことを知りました。


 生きていてほしい、生きているなら、ひもじい思いをせずに元気でいてほしい……。手紙には切ない思いがつづられていました。その方の家があった隣の市で保護されたことからも、月子は間違いなくまり子ちゃんだと確信しました。


 被災したペットたちの向こうにある、人の心の痛みや切ない思いを、改めて感じました。飼い主さんは今は別の土地で新たな生活をスタートされていますが、いろいろな事情で猫を引き取ることはできません。でも、私の元で穏やかに暮らしていると知り、今は安心してくださっています。


 被災した方々はペットと再会できても、以前の暮らしを取り戻すことが難しい。

これから建設される復興住宅でも、被災者の心に寄り添うペットが、一緒に暮らせる配慮がなされることを願っています。それが人の心の救済にもつながるのですから。(女優・作家)


 読売新聞 2013年10月11日 夕刊
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>生きていてほしい、

生きているなら、ひもじい思いをせずに元気でいてほしい……。<
>平和でのどかな日常<
のありがたさ。

猫や犬が幸せに暮らせることは、人間にとっても幸せであると。
今現在、うちには10匹。
家族と突然引き裂かれてしまった方々の切なさが胸に沁みます。