へたのながいと



年末から暫く針仕事に没頭していた。


母が入院し、
前開きマジックテープ仕様のシャツを縫おうと思ったから。。



いやその前から針を持つ勢いのきっかけはあったのだ。

あの人に
何か小さなプレゼントをしたくて

ハンカチにイニシアルの刺繍をしたのが始まり。。




元々針仕事は嫌いではなかった。




子供の頃は刺繍糸を絵の具に見立て、
いろいろ刺繍をしたものだ。


それからやはり小学生時代は、
お人形を縫ったり、
小さな手芸をしたり。。



中学、高校時代は母に隠れて服も縫った。

身体のサイズも小さく、
好みも人一倍ハッキリしていたから、

いろんな凝った服を縫ったものだ。

今でも我ながら「偉いね、よくやるよ!」と感心してしまう程(笑)


母には「余計な事をするより勉強しろ」という意味なのか、
高校時代は裁縫を禁止されていたから
こっそり鞄に隠し持っては
ひたすら喫茶店で内職。

時々、友達の洋裁名人のお母さんのミシンを借りたり。。





けれど決して器用だった訳ではない。




その後、着付の修行時代にまた手縫いに向き合うこととなった。


着付の現場では
その場で半襟を縫い付けていく。。


それから夜なべで
晒で和装の補整下着を縫ったり
衿芯に力布を縫い付けたりは楽しい仕事♪


また自分の好みの柔らかい帯を締めたいから、
一番柔らかい帯芯で帯を仕立てたり。。



絹針は先が物凄く鋭利で
気をつけないと直ぐに指を刺してしまう。
気づかない程の小さな刺し傷なのに
忽ち絹が血染めで拡がる。

あっ!

ぱぁっと拡がる深紅の染み!





それと共に注意されたのは
「下手の長糸」!



元来せっかちで横着で欲張りなBebeは
ともすると「もうちょっと!」と欲張って糸を長くしてしまう。


けれど長く採った糸は必ず絡まったりしてしまうのだ!!



また糸をさっと引き抜く時の爽快感は何物にも替え難いが、
せっかちに糸を引いては
また妙な結び目を作ったり絡まったりして
糸を引けなくなってしまうのだ。。





年末から取り掛かった母用のマジックテープ仕様の前開きの三分袖シャツ細工は
想像以上に難儀だった。。



「なあに、簡単!簡単!

市販の三分袖肌着の前を切って
マジックテープを縫い付ければ良いんでしょ?

暖かそうな素材が良いかな?

ちょっと可愛くしたら病院にいる母の気分もウキウキするかしら??」

などと気負って始めてみたものの、


まず素材からしてなかなかなかった。


「暖かさ」と「三分袖」は矛盾するというのか。。




そしていざ取り掛かると、

改めて!
手縫いでマジックテープを縫う、というのは相当大変な事だと思い知らされた。。



マジックテープはとても硬くて
針が通らないのだ!!


これが泣ける!!


更にはやっと針が通っても
気をつけても気をつけても
糸がマジックテープに引っ掛かり
糸がボロボロになってしまうのだ!!


ボロボロに毛羽立った糸はまた
針穴を通らず
無理に引けばまた千切れてしまうのだ。。


ボタンの代わりに付けた
前立てに並んだマジックテープ。。


一つ僅か切手程の大きさもないのに
一箇所に付き一時間以上掛かってしまう。。



やっとマジックテープの難関箇所を通過して
今度は糸を長くしてスイスイか?


と思いきや!


やはり欲張りの「下手の長糸」では絡まったり瘤を作ったり
泣く泣くやり直し。。。



昔の人はテレビは叩けば直ると信じている人もあったようだが、

断じて言うが、

縺れた糸は、

叩いたって引っ張ったって

決して直りはしない。


丁寧に丁寧に

慎重に慎重に

根気良く

解かねばならない。


というか、

そうなるまえに

多少面倒でも

丁寧に糸を一目一目抜くしかないのだが。。




これは人間関係にも言えるのではないだろうか。。


癇癪を起こして
糸を引っ張ったりするのは、

人間関係でも「怒鳴ったり」するのと同じだ。

「キレる」とはよく言ったものだが、


人間関係でも、
癇癪を起こしたらアウト!

繋がりという糸は
いとも簡単に切れてしまう。。


縺れも残したまま。。






それでも手縫いと言うのはありがたい!



最初は解いてやり直す度に泣きたい気持になったが、


解いてやり直せば良いのだ!!




たった二枚のシャツのリフォームを縫うのに
実に一日10時間一週間も費やしてしまったが


出来上がったシャツを
疲労感の中で恍惚気味な満足を味わいながら、


本当は

シャツの完成以上に大切な
生き方の「何か」を得た思いがした。。