コーネル・ウールリッチ No.31◇今夜の私は危険よ◇ | 星よりも大きく、星よりも多くの本を収納する本棚

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9年間の海外古典ミステリ読破に終止符を打ちました。

これからは国内外の多々ジャンルに飛び込みます。




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そのドレスを着た女はたちまち人を殺し、人を裏切って喜ぶ殺人狂に変わる……女を襲う数奇な運命、救いようのない破滅!






◇今夜の私は危険よ◇ -The Fantasic Stories of Cornell Woolrich-

コーネル・ウールリッチ C・G・ウォー、M・H・グリーンバーグ 編 高橋豊 訳



表が黒で裏が赤、じゃこうの匂いを発散させる、その布を踏みつけた途端、マルドナードの相貌は急変した。顔は険しく堅い表情になり、唇はひきつれ、目は残忍な光を帯びて輝いた。彼女は、飼猫に枕を投げつけると、渾身の力をこめて上から押さえつけた。やがて、机の下から突き出ていた小さな尻尾の動きが止まると、彼女の顔に満足そうな表情が広がった。彼女はその布を肩に羽織るとそれで作るドレスのデザインを考え始めた。ドレスの名はーーー今夜の私は危険よ。

マルドナードのドレスをまとったトラビス夫人は、妖しい微笑みを浮かべて、夫を呼んだ。「ハンカチを落としてしまったわ。手すりの根元にひっかかっているの。風に飛ばされないうちに早くとってちょうだい」ハイラムが甲板の手すりから身を乗り出した瞬間、彼女は夫の両足首をつかんで、それを海に向かって放り出した……

それに触れる者全てを邪悪な思いの虜にする、魔のドレスにまつわるエピソードをスピーディーに綴る表題作ほか、一度死んだ肉体を甦らせる医者、予言によって人を死に導く占い師などが登場する、戯曲を含む5篇とE・ネヴァンズJr.による本格的ウールリッチ論「陰影の詩人、C・ウールリッチ」を収録。都会派サスペンスの名手の怪奇幻想趣味に焦点をあてた異色の中短編集。



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1.魅せられた死

 (Spark to Me of Death)

 ……ロードスターを乗りこなして警察署にやって来た女性アン・ブリッグス。彼女の叔父、莫大な財産を持つ叔父は15日ぴったりにライオンの牙に噛み殺されると予言されたという。その占い師は過去にも予言を的中させて叔父はすっかり信じてしまっている。警部マックマヌスは部下にそれぞれ命令し、予言がトリックであることを告げるがーーー



2.今夜の私は危険よ

 (I'm Dangerous Tonight)

 ……パリのデザイナー、マルドナードが製作した赤と黒の麝香が香るドレス。そのドレスを出来心で着たお針子は警備員を殺し、愛人であり犯罪者である男をFBI捜査官フィッシャーに売った。今まで慎ましかったトラビス夫人は夫を手にかけ、ニューヨークに護送中の男ベルデンを逃す。大怪我をして職を失ったフィッシャーは……



3.コブラの接吻

 (Kiss of the Cobra)

 ……わたし、妻のメアリー、その弟と一緒にサン・ベルナルディノの山荘にやって来た。メアリーの父親が新婚の妻と一緒に帰ってくるのだ。ところがその妻に何か不気味なところがあった。歩き方といい、スープの飲み方といい、まるで蛇みたいなのだ。その夜、義父が急死してその死因は……コブラ毒!?



4.ジェーン・ブラウンの体

 (Jane Brown's Body)

 ……朝3時に若い女を乗せて猛スピードで走る車。運転手はガソリンを入れるにもスピード違反の取り締まりにもビクビクする始末。それもそのはず、とうの昔に死んでいる女を見咎められたく無かったからだ。とはいえ、男は始末するために女を運んだわけではない、生き返らさせるために車を運転しているのだ!



5.誰かの衣装ーー誰かの人生

 (Somebody's ClothesーーSomebody's Life)

 ……ルーレット狂いが抑えきれない伯爵夫人は髪型も服装も考え方も変えて全くの別人になれ、と千里眼師から助言を受ける。そこで彼女は投身自殺した女性の服を着て、彼女になりすます。すると……



5.陰影の詩人、C・ウールリッチ(フランシス・M・ネヴィンズJr.)



6.ウールリッチについて(バリイ・N・マルツバーグ)



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「今夜の私は危険よ」です(・∀・)



ウールリッチ作品の中で合理的な説明が出来ない怪奇幻想色の強い作品を収めています。死を予言する者、邪悪心を呼び起こすドレス、蛇そのものな女、人を蘇らす医者、人生を取り替えられるドレス……それに振り回される者、立ち向かった者の悲劇的破滅的な運命! 特に女の運命は悲惨です。説明出来ないものに直面して落とし穴に落ちるように真っ赤様に悲劇の運命に突入してしまうその姿の悲しいことよ。



1は「どこかで同じの読んだな?」と思いましたが、これの短編化でした。あの時は憤慨したけど今はもうその気持ち無いな……すっかり染まってしまった← 警察官の言葉じゃ無いけど暗示による殺人はあり得る、と思います。



2は魔のドレスとそれに出くわしてしまった人間の理不尽な破滅が逸脱です。いやこれ、トラビス夫人が気の毒過ぎる……果たしてあの布はどこから来たのか? はウールリッチにとってどうでもいい。その悲劇が、理不尽が、絶望を我々読者が体験できたのなら。



ウールリッチが書く人物に本物の悪人はいない。それと同時に愛を失ったり、一旦犯罪や不況の世界に入ってしまったり蟻地獄よろしく抜け出すことはほぼ不可能だ。ウールリッチが書く人物は現実世界の誰かであり、あなたであり、私である。彼らの感情を、立場を、思考を、現実世界の誰かもあなたもわたしも体験させられている。



「今夜の私は危険よ」でした(・∀・)/ 

次は早速このミスうううううう!!!(*^o^*)/