全部を失った夏だった。
それが私のすべてだったし、
それなりにうまくすべってきた私の人生で、
そんな行き場のない悲劇が舞い込んでくることが全然受け入れられなかった。
どうにでもなれと思って街をさまよっていた。
幸運なことに夜までとても暑くて、
ペットボトルの水を片手に、
もうどこまで行ってもいい気がしながら歩いた。
汚いおじさんにナンパされてもついていっただろうし、
知らない人に声をかけられても朝まで一緒に飲んだと思う。
すべての前にはちゃらちゃらした恋愛は無力で、
それを機に全部捨ててしまおうと思った。
ゆるいズボンとゆるいTシャツと携帯で、
それで生きていこうと思った。
私は自分を捨てようと思った。
なんのために生きていこうか、と考えながらすっぴんであるいた。
こどものまま大人になった。
今夜をどうやり過ごすのか、
明日の朝までどうやって生き延びるのか。
それを考えながら、歩いていたらあなたに捕まった。
今夜だけでも一緒にいてくれるのだ。
これで今夜はひとりでねなくていい。
失ったものを想って、
どうにもならない涙を流さなくていいのだ。
あなたと温かい紅茶を飲むような、
そんな継続的な幸せなんてなくてよかった。
それでもあなたは私を抱きしめ、
ずっと私のそばにいる。
あの夏の夜からずっと。