旧市街をあてもなくぶらぶら歩いていたら、
ジュエリー職人のお兄ちゃんと知り合いました。

「パレスチナのものを集めてるんだ!」という彼・ラーミーの骨董屋は
まさに宝箱をひっくり返したようで、
イギリス占領時代のコインや、その頃にヨーロッパから届いた手紙、
むか~しの「神殿の丘」入域チケット、古い新聞記事、切手、紙幣等々、
探したってなかなか手に入らないようなグッズが
あっちこっちに散らばっています。

「そのへんのお店は、同じものばっかり売ってるだろ?
 俺は違うぞ。一品ものしか作らないんだ。
 おんなじデザインは二度と作らない。」

真剣な顔でそう言う彼は、お店の奥で銀を溶かして、アクセサリーを作っています。
学校は中学2年で中退。20年間、イスラエル側のアクセサリー工房で働き、
旧市街ガイドの資格も取り、工房を辞めてオープンしたお店です。


でも彼、売る気がないのです。(笑)
「これ、150シェケルなら買うよ」と言う近所のおっちゃんには
「お前には売らない! 帰れ!」とまくしたてるし、
オスマントルコ時代のタバコを「これは絶対売らないんだ~♪」と
ショーウィンドウに大事に飾ったりしています。


刺繍入りの私のブラウスを見て、「おんなじような刺繍、持ってるよ!」と言い、
店の箱の中から素朴な手刺繍のテーブルクロスを出してきた彼。


「これはね、ある貧しい女性が、一ヶ月かけて大切に縫ったんだ。
 あるときトルコの観光客が『150シェケルなら買う』って言ったんだけど、
 僕は売らなかった。

 150シェケルなんて、50ドルくらいだろ?
 自分でも縫い物をするっていう彼女に向かって、言ってやったよ。
 『あなたが1ヶ月かけてこれを縫ったとしたら、いくらで売りますか?』
 って。

 だって、そうだろ? 彼女は結局、買わなかったよ。」



…うん。そうだよね。
ここは観光地で、毎日たくさんの地元っ子が一生懸命なにかを売って、
掘り出し物を探す目つきの観光客が、毎日ぽんぽんと価格交渉をしてる。
でも、買い物で大事なことって、そういうことだ。