「谷中から根津に行こうか」
後ろの紳士がそう言った
隣の女性が「え?」と訊き返す
紳士はもう一度言ってやる
彼が三度目に繰り返したとき
私はやっと理解する
二人を結ぶ光陰の数
ふわりと積まれた丁寧なくらし 
私の持たぬ細やかさを

残業中にチェーンの丼屋に行くと、店員の名札は大体カタカナで書かれている。

片言の日本語で注文を取り、ワンオペで店を回す浅黒い肌の彼のことを、

私は知らない。

 

遅めの時間に保育園へ行くと、ツナギを着たママが子どもを迎えにきている。

彼女がどこでどんな仕事をしているのか、

私はその日常を思い浮かべることができない。

 

髪を切る美容師の手に目をやれば、乾いた地面のようにひび割れている。

爪まで変色させてしまうほどに積まれた彼らの努力について、

私は想像さえすることができない。

 

毎朝おなじベンチに座り卑猥な言葉をかけてくる、爺さんの家を私は知らない。

秋葉原の高架下で段ボールに囲まれて眠る夜のことを、私は知らない。

毎年個展を開くホームレスのKさんがどこでどう絵を描いているのか、私は知らない。

たまに家の近くを爆音と共に通り過ぎるバイクの主の心のうちを、私は知らない。

 

そうやって知らないことが多いのに、

自分のことばかり、自分が知っていることばかり、

伝えようと声を張り上げることは、とんでもなく不誠実な気がしてならない。

 

世の中は役割分担で出来ている、そうだとしても、

私はもう少し、時間を充てるべきなのではないかと思っている。

自分の意見を支える情報を効率よく探しまわることではなく、

耳目に入れようとしてこなかった現実に、身体からぶちあたってみることに。

ピーテル・ブリューゲルの画集のページを繰っていて、こんな言葉にたどり着いた。

ーーーーー
『我々の心は自尊心と野心に動かされており、誰もが、善人と呼ばれることを望んで善人であろうとはせず、他人に教えたがりながら自ら謙虚であろうとはせず、多くの知識を求めながら僅かのことしか行おうとせず、他人を服従させたがりながら神の御手の下に頭を垂れようとしないのである。』
アブラハム・オルテリウス「カトリックの不審、プロテスタントの熱病、ユグノーの赤痢」より
ーーーーーー

自尊心と野心に蓋をされたら、私は生きていけない。
それでも、彼の言わんとすることはよく分かるように思う。「私はどうしてこんなにも、他人に対して求めてしまうのだろう」という糸を手繰っていけば、帰着するのはそこなのだ。

今週うれしかったのは、先輩の言葉から、私に対する評価が滲んで見えたことだった。自身による評価より上方だった。
でもこれが、慢心と、他人への要求につながりそうな気配がする。

だから、もう少し自分で自分を丁寧に評価して、自分で自分の燃料になろうかなと思う。
漠と不安がるのではなく、記録をとり、過程を残して、「大丈夫、歩んでいるよ」と伝えてあげる。そしてたまに、周りに勇気付けてもらおう。
そうやって、自尊心と野心を御したいと思う。

緊急出張、入院、双子出産…と波瀾万丈だった今年は、

ほとんど目標を達成できませんでした…。

 

目標を振り返る。↓

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1)文章力を伸ばす。
指標1:月に1本、2,000字以上の原稿を書いて

誰かに見せ、赤入れしてもらう。
 

2)知識の引き出しを増やす、深める。
指標1:年間25冊の本を読む。
指標2:好きな詩人を2人見つける。
指標3:年間12本の映画を観る。

 

3)自分という器を使いこなす努力をする。
指標1:和服の着付けができるようになる。

指標2:心地よい生活ペースを見つけて維持する。

 

4)語学力を維持する。

指標1:月に2回はパレスチナの友人に電話する。

指標2:アラビア語正則語の文法テキストを読み直す。

 

5)貯金。

指標1:娘を4年後に中華街の小学校に行かせてあげられるよう

我が家の収入(=自分1人分)・支出(=家族3人分)を整える。

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まぁ、来年仕切り直そう!

一応、読んだ本を棚卸ししておきます。

 

・「腐敗性物質」田村隆一(詩)

・「あん」ドリアン助川

・「君のためなら千回でも(上・下)」カーレド・ホッセイニ

・「ばあちゃんの幸せレシピ」中村優

・「殺す側の論理」本多勝一

・「わたし、解体はじめました」畠山千春

・「困ってるひと」大野更紗

・「タイの田舎で嫁になる」森本薫子

・「置かれた場所で咲きなさい」渡辺和子

・「行動することは生きることである」宇野千代

・「その日のまえに」重松清

・「ものがたり風土記」阿刀田高

・「心臓に毛が生えている理由」米原万里

・「旅行者の朝食」米原万里

・「ガザの八百屋は今日もからっぽ」小林和香子

・「昭和史 1926-1945」半藤利一

・「打ちのめされるようなすごい本」米原万里

・「セックスボランティア」河合香織

・「砂の器(上・下)」松本清張

・「ぼくの村は壁で囲まれた」高橋真樹

・「子どもをのばすアドラーの言葉」岸見一郎

・「転がる香港に苔は生えない」星野博美

・「生きながら火に焼かれて」スアド

 

マンガ

・「はたらく細胞」

・「コウノドリ」

・「逃げるは恥だが役に立つ」

・「透明なゆりかご」

・「この世界の片隅に」

 

映画

・「舟を編む」

・「駆込み女と駆出し男」

・「おおかみこどもの雨と雪」

・「思い出のマーニー」

・「父と暮せば」

・「深夜食堂」

 

 

乳児2人がいると、文章もマトモに綴れない…。

FBで短いものばかりを垂れ流しております。

来年こそ、少しまとまったものを仕上げられるといいな。

COUNTERFIREに掲載された、友人のオピニオンを訳しました。

 

 

http://www.counterfire.org/articles/opinion/19361-i-m-a-palestinian-from-jerusalem-where-s-my-say

 

 水曜日の朝、僕は通勤の途中でラジオを聴いていた。一時間にわたって僕が聴いたのは、トランプが予定している発表がもたらすことについての、コメントや予想だ。彼はパレスチナのマフムード・アッバース大統領に電話して、米国大使館をテルアビブからエルサレムに移設することを伝えた。その朝、様々な意見を聞いた後、僕はこのことばかりを考えるようになっていた。

 トランプは本当に、エルサレムに関する決定を下せるのだろうか? 一体、どうやって? 彼は政治的背景を持っているとはいえないし、彼は何千マイルも離れたところに座った、ダメなビジネスマンに過ぎない。それなのに、彼がエルサレムをすべてイスラエルに渡せると、ほんとうに本人は思っているのだろうか?
 もちろん、彼はこの事態を歪んだ政治的利益に利用するのだろう。おそらくこれは、彼が大統領選の間に発表した中で、彼が満たそうとしている唯一の約束なのだ。

 でも、僕は?
 僕はパレスチナ人で、エルサレムに住んでいて、パレスチナの首都で暮らしている。エルサレムは僕の街で、僕の中心で、僕はここに帰属している。実際、僕は他のどこにも属していないのだ。エルサレムを除いては。

 これについて僕自身が強い意見を持っていることを理解するのに、時間はかからなかった。そして、トランプは一つの意見も持たないはずなのだ。
 彼は、エルサレムが誰のものかなんて、僕に言うことはできない。僕はこの街に愛着があるけれど、彼は全く持たないし、ましてや理解などしていない。彼はこの場所で僕が知っている街路だって知らない。そして彼はきっと、理解できやしないのだ。金曜の午後、不屈に満ちたエルサレムの空気を吸うとき、どんな感じがするのかを。

 発表がなされるその日の夜、僕は確かにテレビの前にいた。僕はトランプが発する一言一言を聞きたかった。僕は画面を黙って見つめながら、僕が今日聞いた全てのことが間違いであったらいいのに、トランプが何か他のことを話せばいいのに、と微かに願っていた。

 僕は、和平プロセスの復活や、中東に安定をもたらす新しいイニシアチブについて彼が話すのを聞きたかった。でもドナルド・トランプは自ら望み、決定を下したのだ。エルサレムを統一された永遠の首都とするイスラエルの発表を一蹴した、1980年の国連安保理決議に逆行したばかりでなく、ハマースがファタハにガザ統治を委譲すると思われた日の数日前にこんな発表をした、邪悪な大統領として想起されることを。
 この試みは、パレスチナの二つの党の和解を壊してしまうだろう。これらの党は10年以上も分裂し、統一政府を創ることができなかったあとで、やっと和解の合意に達したところだというのに。

 本当の問いは、エルサレムをイスラエルの首都と宣言し、米国大使館をここに移転することが、実際には何を意味するのかということだ。
 短期的に、そして現場の事実から考えれば、何も変わらないだろう。イスラエルが1948年にエルサレムの一部を、また1967年に残りの部分を占領したことを、思い出してほしい。それからというもの、この街はイスラエルの軍事管理下に置かれていて、イスラエルはエルサレムとその住民のすべてをコントロールし続けている。そして、住民の三分の一はパレスチナ人だ。

 それでも、この宣言はたくさんの政治的な重みを抱えている。まずなによりも、トランプの動きを追う国々の前例になってしまう。それが普通のことになって、じきに僕らはもっと多くの領事館や大使館がテルアビブからエルサレムへ移ってくるのを、目の当たりにすることになるだろう。

 長期的にみれば、僕らはこの日を、和平プロセスの終焉を運命付けた日として想起して語ることになる。エルサレムは、パレスチナ人、そして多くのアラブ人、世界中のイスラーム教徒たちにとって、越えてはならない一線なのだ。パレスチナ人の意見が反映された最終合意に達するまでは。

 トランプは和平合意を押し進めたいと言い、パレスチナ人とイスラエル人双方にとってのぴったりな解決策のため、米国が献身的に取り組むと発表した。けれども、彼が状況をイスラエルにとってより好ましい方向へ明確に動かしてしまった今、僕はもう遅すぎると思う。一人のパレスチナ人である僕は、公正な解決策と紛争の終わりを共にもたらすことにおいて、もう米国を信じることができない。

 この宣言と、起こりうる交渉会談のあとには、エルサレムの問題にパレスチナ人が手を出すことは難しくなるだろう。なぜなら、イスラエル人はこの首都認知を、エルサレムがすでに彼らの首都であったことを確定する根拠にするだろうから。

 僕はその後数日、パレスチナ人たちがこれからどうするか、どう反応するかについて、何度か意見を求められた。そして僕は、こういう質問にどう応じるか、必死に僕の答えを探した。
 この手の質問に直面するたび、僕はパレスチナ側のリーダーシップが欠如していることを思い起こさせられる。実際、パレスチナ人たちに何ができるのだろう?
 彼らはこの決定への怒りを表すためにストライキを呼びかけ、3日間の活動やデモを組織した。でもこれは米国の立場を覆すことにはならないし、なんの影響ももたらさない。パレスチナ人が打ちのめされ、権利を奪われるのは、これが初めてのことではないのだ。僕は、これが「最後」であることをただ祈っている。

 もし仮に僕らが、近隣のアラブ諸国がこちらに振り向いて支援してくれることを願ったとしても……彼らは僕らに共感してくれると思うものの、結果に大差はないことを僕らは知っている。その国々のいくつか、イスラエルや米国と積極的な関係をもつ国々が、僕らのためにその影響力を使ってくれることを僕は期待したいところだ。最低限、これらの国々が自国内の米国大使に、非難やこの恥ずかしい決定への拒絶を託すこと、そしてこの紛争における大使の立場についてマシな弁明を要求することを。

 でも、僕らパレスチナ人たちは闇の中に取り残されていて、ふたたびアラブの友人たちに見捨てられているように思う。僕らがこの醜悪な現実の中で暮らし、僕らの自己決定権や正義という希望を、このふざけた大統領の面前で消し去られてしまうのを目撃するように。

2017年12月12日

アフマド・ムナ/Ahmad Muna
東エルサレム出身のパレスチナ人。ケント大学で財政学の学士・修士を取得。現在は東エルサレムにて、家族で経営している「Educational Bookshop」のマネージャーとして働き、またお茶を通じてアラブ人女性の自立を支援する「Leaves of Canaan」の共同創立者・事務局長を務める。

「考えなさい、自分とは異なる誰かのことを / Think of Others」

Mahmoud Darwish

 

朝食の支度をするとき 考えなさい 自分と異なる誰かのことを

ハトにえさをやるのを 忘れてはいけない

争いへ向かおうとするとき 考えなさい 他者のことを

平安を求めている誰かのことを 忘れてはいけない

水道代を支払うとき 考えなさい 他者のことを

雲からの水で生き延びている誰かのことを 忘れてはいけない

家 あなたの家に帰るとき 考えなさい 他者のことを

テントで暮らす人のことを 忘れてはいけない

眠りについて星々を数えるとき 考えなさい 他者のことを

寝るための場所を持たない 誰かがいることを

自身を喩えて解放するとき 考えなさい 他者のことを

言葉にする権利を失った 誰かのことを

そしてあなたが遠くの他者のことを想うとき

考えなさい 自身のことを

そして声にするのです

「ああ、私が暗闇の中の蝋燭であったら!」と

 

原文はこちら

 

* * *

 

M. ダルウィーシュは、パレスチナの代表的な詩人です。

1941年に生まれ、2008年に亡くなるまで、

パレスチナ人の心の琴線に触れる数々の詩を発表してきました。

 

パレスチナではエドワード・サイードよりも彼の方が断然知られていて、

ウォール・アートにも描かれていたりします。

タクシー運転手が詩を諳んじてくれた時はびっくりしましたが。笑

それだけ、彼らの心に沁みる作品が多いのでしょう。

この詩もアラビア語が韻を踏んでいて、シンプルに美しくできています。

 

* * *

 

「モラルは詩に秘められた弾丸」と説いた詩人の、

最上級のモラルを見せつけられたような思いがします。

遠く、遠くの人を想えばこそ、

私が、彼が、彼女が、闇の中の蝋燭でいられますように。

いま、ここで。

サン=テグジュペリの「人間の土地」に出てくる

ギヨメのように、文章を書きたいなと思っています。

 

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それにしても、あの晩、なんと不思議きわまる地理学の講習を、ぼくが受けたことか! ギヨメはぼくに、スペインを教えてはくれなかった、彼はスペインをぼくの友達にしてくれた。彼は、水路学のことも、人口のことも、家畜家賃のこともまるで語らなかった。……ただゴーデスの近くに、ある原っぱを囲んで生えている三本のオレンジの樹について、<あれには用心したまえよ、きみの地図の上に記入しておきたまえ……>と、言った。するとたちまちにして、その三本のオレンジの樹が、地図の上で、シエラネヴァダの高峰より幅を利かすことになるのだった。彼はまた、……つまらない一軒の農家について語った。その生きた農家について。……すると、この夫婦の者が、ぼくらのいまいる所から千五百キロの遠隔の地にありながら途方も無い重要さをもつのであった。……こうしてぼくらは、全世界のあらゆる地理学者に知られていない事情を、その忘却とその驚くべき距離の奥から引きずり出してくるのであった。……ぼくは、地理学の先生たちがなおざりにした、あの羊飼い女を、その正当な位置においた。

サン=テグジュペリ「人間の土地」(堀口大學訳、新潮文庫)p.15-16

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* * *

 

最近、スマートフォンを解約しました。

自分らしい時間を取り戻したかったからです。

長い長い移動時間に新聞と本が読めるようになり、今月に入って6冊読みました。

しばらく、こうやって過ごしてみたいと思っています。

仕事や活動とは別に、今年の目標を決めました。

 

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1)文章力を伸ばす。
指標1:月に1本、2,000字以上の原稿を書いて

誰かに見せ、赤入れしてもらう。
 

2)知識の引き出しを増やす、深める。
指標1:年間25冊の本を読む。
指標2:好きな詩人を2人見つける。
指標3:年間12本の映画を観る。

 

3)自分という器を使いこなす努力をする。
指標1:和服の着付けができるようになる。

指標2:心地よい生活ペースを見つけて維持する。

 

4)語学力を維持する。

指標1:月に2回はパレスチナの友人に電話する。

指標2:アラビア語正則語の文法テキストを読み直す。

 

5)貯金。

指標1:娘を4年後に中華街の小学校に行かせてあげられるよう

我が家の収入(=自分1人分)・支出(=家族3人分)を整える。

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全体にいえることですが、今年も前を向いて

変化を恐れずに生きたいと思います。

では、がんばります!ほどよく。

 

 

 

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エルサレムで暮らしていた家から見る朝日。