※咎狗ドローイングに投稿した冒頭部分を大幅に修正して掲載しています
――これは、森の奥深くで生まれたちいさな物語。
「この赤い布は黒き闇を退けるもの……この森に来るときは、決して外してはいけない……」
透けるような金色の髪が、湖面で反射した光を受けてきらりと輝きました。アキラの頭にふわりとかぶせられたのは、真っ赤な一枚の布でした。
首元でリボンを結ぶと、金の髪のひとは念を押すようにそう言いました。
そうです。これはたいせつな、たいせつな赤ずきん。
森に住むオオカミに食べられないための、魔法の赤ずきんです。
――*――
その日もアキラは赤ずきんをかぶって、森の奥深くにひっそりと佇む小屋に向かって獣道を歩いていました。
片手に携えたかごには、けさ教会の前の木からもいだばかりのりんごと、村のはずれで見つけた新鮮なきのこと、お気に入りの絵本です。
絵本は、教会の本棚にあるものを勝手に持ち出したものでした。アキラは字が読めないので、小屋の主に読んでもらおうと思ったのです。
神父さんはもちろん字を読むことができますが、忙しいところを煩わせたくはありません。ただでさえ、行き場のないアキラに住む場所と食べ物を与えてくれているのです。あんまり多くを望むのは厚かましいでしょう。
小屋の主に絵本を読んでもらう代わりに、アキラは村や森で手に入れた食べ物をお礼としてあげていました。
なぜなら、かのひとは食べ物に困っているようだったからです。
彼はいつも小屋の周りの木の皮を剥いではかじってばかりいました。アキラも食べ物にはこだわらない方ですが、さすがに木の皮は勘弁でした。
そこで、少しばかりではありますが果物や木の実や山菜といったものを持って行くことにしているのです。
アキラがあげたものは素直に食べていましたから、木の皮だけを食べるというこだわりがあるわけでもないようでした。本当に不思議なひとです。
「ところでこのきのこ、食べられるのか……?」
かごの中のきのこは新鮮ではありましたが、食べられるものかどうか、アキラにはいまいち自信がありません。まあでも、色々な病気を治してしまう薬を作れるような人ですから、どれが毒きのこかは知っているでしょう。
アキラはそんな無責任なことを考えながら黙々と歩いていましたが、あたりが少しばかり暗くなってきたようです。
村を出たときには晴れていたのですが、遠くから雲が流れてきたのでしょう。生い茂った枝葉のあいだからは、濃い灰色の空がのぞいています。
このまま行くにしても引き返すにしても、かなりの距離がありました。あいにく、傘は持ってきていません。
どうしようかと考えあぐねているうちに、ぽつ、ぽつ……と雨粒がアキラの頬を打ち始めました。
「まあ、これくらいなら……」
多少濡れたとしても、あとで乾かせば問題はないでしょう。絵本はどうしようもないので、神父さんに謝るしかなさそうです。そう思って歩き続けましたが、雨はどんどん酷くなる一方でした。
ざああ……とこぼれるように落ちる雨水が木の葉を鳴らし、強い風がアキラの行く手を阻みました。頭にかぶっていたずきんもすっかり水を吸い、体が冷たくなってきました。
さすがにこれ以上進むのは無理そうです。いったん諦めて、雨宿りできそうなところを探すことにしました。
獣道からも外れて草をかきわけながら少し進むと、雨をしのぐのに良さそうな穴を見つけました。
大きな岩が重なって、隙間が洞窟のようになっていました。大きさは人ひとりが通るのには十分です。
アキラはその穴に入ってすぐ、重たくなったずきんを外してぎゅっと絞りました。
「ふう……」
穴の中はじめじめしていましたが、これ以上濡れることはなさそうです。
体を休めるのにちょうどよさそうな場所を見つけると、岩壁に背中を預けて座りました。
かごにかけるようにしてずきんを広げて脇に置き、一息つくと急に眠気が襲ってきました。雨の中歩き続けたのが良くなかったのでしょう。
誘われるまま目を閉じると、じんわりと眠りの足音が近づいてきました。
「……」
どうせ雨はすぐにはやみそうにありません。少しだけ寝てしまいましょうか。
そう思うや否や、アキラは意識を手放していました。
▶ひとこと
ようやく1回目をスタートさせることができました。しばらくは狗ドロに載せていた分を直しながら続けていこうと思います。
設定でふざけつつもシリアス×ハートフル展開でいこうかなあ……と考えているところです。
シキさんはオオカミですが、獣姦は書ける気がしないのでないです……たぶん。
やっぱりシキアキ書くのは楽しいですね~(まだシキ出てないけど)。次回も早めに上げたいです!
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▶拍手お返事
6/13 3:34
メッセージありがとうございます! また作品を読んでいただけると思うと少し恥ずかしいですが嬉しいです! ぜひシキアキ沼においでくださいませ~!