Strawberry Candle(13) | えりんぎのブログ





~チャンミンside~














「チャンミナ、・・・今日も泊まるつもり?」





僕はあの日から同じゼミのキュヒョンちにずっと泊まっていて、───




一度荷物を取りに帰った時、ジヒョンさんには泊まりでレポートを仕上げるからと言い訳をしていた。



もうこれで一週間。
もちろんユノからは何の連絡もないし、むこうも気まずい思いをしなくて助かってるのだろうと思う。




一度だけスヒさんから電話を貰って。


「ユンホ坊ちゃまと喧嘩でもしたのかい?坊ちゃまもひどく機嫌が悪くてね。・・早くレポートだかリポートだかを終わらせて帰っておいで?」


ふふ、やっぱりスヒさんは暖かい人。
でもまだ到底帰る気にはなれなくて、ごまかすように電話を切ってしまった。




「ん、・・そろそろ迷惑?」



「・・んなことあるわけないだろ?どうせ1人暮らしなんだから、居たいだけ居ればいいけどさ。」


「─────なんか、あった?」




キュヒョンは1年の選択科目が一緒になって以来、妙に意気投合していつも一緒にいる親友といえるヤツ。


そんな親友が心配そうに僕の顔を覗き込んでくるけど。



───言えないよな?・・ユノとの事なんて。




「親父さんが急に亡くなって、いきなり親父さんの友達の家で居候するって聞いた時はびっくりしたけど。
・・それもあの大企業の社長宅とかって、・・そりゃ疲れるわなぁ。」


って、ひとりで納得しているキュヒョン。


僕もとりあえず曖昧に笑ってみせた。




「・・で、レイナとはどうなった?」


突然話題を変えられて、・・まぁ、その方が助かるんだけど。


やけに目をきらきらさせて興味津々に聞いてくるヤツ。




────そう、いつかユノにも彼女がいる、って言ったことがあったけど。



彼女がいる、というよりは。
彼女になる予定の子がいる、って感じで。


同じゼミのレイナに告白されたのが、父さんの亡くなる少し前で。
それからあまりの忙しさに返事をする暇もなく今に至ってしまった。



レイナのこと。
正直好きとか、・・あまり意識してなかったけど。
ゼミの仲間で遊びに行くと一番よく話す女の子だし、話していて楽しい。




───つき合うきっかけって、案外こんなものなのかもしれない、と。



見かけによらず実は結構ロマンチストな自分が考えるほど、・・好きで好きでたまらない人、ってのはそうそう転がってるものじゃないよな?




────おまえ、ばっかじゃねーの?
そのビジュアルで本気の恋愛しかしねぇなんてさ、もったいないお化けがでるな。



つい口が滑って話してしまった、自分の恋愛観。
バカにされてから誰にも言うことはなくなったけど。
・・いつか本当に好きで好きでたまらない、って人が現れると密かに諦めてない自分もいて。



「ん、・・まだ迷ってる。」


ボソッと呟く僕に、苦笑いを浮かべたキュヒョン。


「ま、それがおまえだしな?好きなだけ悩みな。」


ポンッと背中をはたかれて、そんなキュヒョンにちょっとだけ安心した。




だって、────おかしいんだ。


少し前までは確かにつき合うのもいいか、と思っていたのに。
今はどうしてもそんな気になれない。





───今だけ?・・今だけ、だよな?



僕の頭の中はずっとユノに独占されていて。




─────あの怒りを孕んだ瞳、責めるような唇、・・・掴んで離さない力強い腕、・・・。



僕は男なのに、・・あんなことされて悔しい。
それなのに、───あの日、僕にむけた優しい眼差し、くだらない話にいちいち頷くユノの微笑みが、


──────僕を苦しめる。






 


「チャンミナ!キュヒョナ!」



ぶんぶん手を振りながらこちらへやってきたのは、噂のレイナと友達のリジ。



「ね?この後、ボーリングでも行かない?」って誘いにキュヒョンも行く気満々で。


あまり気が乗らないけど、しょうがない、つき合うか、・・と正門までの通りを歩いていたら、




「キャーッ!見た見たぁ?ねぇ、もう一回チャレンジしようよっ!」


「や~ん!目の保養~~!」




派手な女の子たちの派手な大騒ぎに足を止めるほどびっくりした。



隣ではキュヒョンが、───なに?アレ。ってレイナ達に聞いてて。




「あ~、あれね。
なんか正門のところにスーツ姿のすっごいイケメンがずっと立ってるのよ。
誰か待ってんのかな?
あの子達、さっき声かけてまるっきり無視されてたのに、へこたれないわね~!」


大げさに肩を竦める彼女たちの隣で。




─────まさか、ね。


そんなことあるわけない、・・・そう思うのに、自然と足早になる。










────正門脇、・・ただ立っているだけなのに圧倒的な存在感。



仕事中なのだろう、スーツで武装していても隠しきれない色香を放ち、




─────学生たちの熱い視線を一身に浴びてなお、別世界にいるように佇む人。





「────ユノ。」


ゆっくりと近づく僕。


落とした視線が静かに僕に重なる。




一瞬重なった視線を、ふいっ、と。
明らかに僕から目を逸らし、顔は無表情のまま。





「─────悪かった。・・もう二度と嫌がることはしない。」




それだけポツリと、・・そのまま背を向け振り返ることなく行ってしまった。