~チャンミンside~
─────「チャンミナ。」
心底疲れたようなその人が突然僕の部屋を訪れて。
「なかなか上手くいかない、・・・慰めて?」
ドアを開けた先からギュッと抱きしめてきた。
「な、なんですか?///・・仕事?」
「ん。」
そのまま抱きこまれて剥がせそうにないから、ズルズルと引きずるように部屋の奥まで連れてくる。
ユノが弱音を吐くなんてめずらしい。
よほどの事?
聞いてもこれ以上は絶対言いそうにないから、黙ったままコテンッとユノの肩に頭を預けた。
「・・・温かいミルクでも淹れましょうか?」
見上げたユノはいつもとは違う真剣な顔。
見つめ合ったままどちらからともなく近づくそれに。
いまだにバクバクと煩い心臓が恥ずかしいのに、・・一度触れあったらもう止まらなくて。
「・・ぅん、・・・ぁ、・・ユ、ノ。」
熱い唇の隙間からさらに熱い舌が挿しこまれて、角度を変えながら何度も絡め合う。
そっと覗き見たユノが、
紅潮した頬に、
キュッと切なげに寄せた眉、
伏せた長い睫毛さえも、───壮絶な色気を放って。
ズクンと腰が震えて、身体が怯んだのを。
さらにギュッと抱き寄せられたまま、時が止まった。
「チャンミナ、──俺の部屋へ行こ?」
ぐいっと腕を引かれて、足がもつれた。
そのまま腰を支えられて無言のまま部屋を出ようとするのを。
「・・・ユノ、・・・?」
一瞬だけ抵抗したけど、・・それは本当に一瞬で。
何も言わない横顔はただ真っ直ぐを見据えて。
身体中から発散するオーラが僕を欲してるのを、────駄目だ、と。
そう言うのが正解だと分かっているのに、・・無理で、どうしてもこの手を離したくなくて。
・・・最初で最後にするから、・・と、誰に向かっての言い訳なのかそれすら靄がかかったような頭では考えられない。
─────ねぇ、僕もユノが欲しいんだ。
ボスンッ、と深く沈みこんで、真新しいシーツに仄かなライトが影をつくる。
肩肘をついたユノが僕の後頭部をたぐり寄せて、僕も夢中で腕を絡めた。
息継ぐひまもないほど深く重なった唇は、ピリピリと痛いほどに甘く。
──────チャンミナ、・・・
全身で僕を求めるその熱さに、
ふと細める艶やかな瞳に、
溜まりに溜まったものが胸の奥深くから込み上げてきて、・・・
「泣くな、・・チャンミナ。」
溢れる涙を止めることが出来ない。
「────ユノ。・・これ以上、は、・・ぅ、・・ふぅ、・・戻れなくなる。」
両手の甲で隠しても、・・意味ないね、・・ぼたぼた、と流れるそれは頬から顎へ、首筋まで幾筋も痕を残すから。
「チャンミン、・・戻るつもりはない。
───覚悟しろ、と言ったろ?」
「親父のように、・・何かのせいにして中途半端に想いを断ち切ることはしない。」
「え?・・ユ、ユノ、・・知って、?」
驚きで引っ込んでしまった涙。
目の前のユノは冷静で、僕の言葉にピクッと眉を寄せる。
「・・なに?・・おまえ、知ってんの?」
「あ、あの、・・知ってるというか、・・気づいたというか、・・。」
なぜ?
どこまで?
貴方の父親が、・・・自暴自棄になるほどの想いを抱いていた人の息子が目の前にいるということを?
「────留学前に、書斎で親父と話して。
一旦部屋を出たけど言い忘れた事を思いだして戻ったら、めずらしく鍵を開けっ放して不在だった。」
「そこで見つけた。手紙と、・・写真を。」
「おまえの父親宛ての数通の手紙と、────おまえにそっくりな写真だった。」
淡々と話すユノ。
そんなユノを見てられなくて逸らした目線を、ぐいっと元に戻された。
「・・すぐ分かった。ああ、息子か、ってね。
完全に無視するつもりだったのに、・・おまえ見てたら、それもできなくて。
・・どうやって傷つけてやろう、とも思った。」
「ユ、・・ノ?」
ふわっとユノの手のひらで頬を包まれる。
「でもさ、───おまえ、キレイなんだもん、中身が。」
細めた目でくだけたように笑うユノは、もう能面でも無表情でもなくて、───心から僕を愛おしいと、そう全身で言っていた。
一度止まったはずの涙がまた零れそうで。
「・・最近ではあのクソ親父も、───こんな気持ちだったのか?って思ったり。
でも俺は同じ様にはならない、って誓ったり。」
───泣くなよ、チャンミナ。・・と目尻に舐めるようなキスを落として、
心の奥まで射るほどの視線。
「チャンミン、───俺を諦めるな。」
それは深く僕の胸に響いた、───。