Strawberry Candle(34) | えりんぎのブログ




~ユノside~




















───────泥沼の中に沈んでいく





もがいてももがいても身体は自由を失うばかりで、・・どこを見渡しても完全な暗闇の中。



春のさわやかな風にのってひとすじの光、──────チャンミン。













「そ、・・じゃあ、脱いで?」


そう言ったのは、ちょっとした動揺を隠すため。


見覚えのある顔、───親父の旧友の息子?
一瞬で心当たりが浮かぶ。
それは何年か前に偶然見た写真。



───今さら息子を呼び寄せてどうするつもりだ?



あまりの嫌悪感に吐き気すらした。






「ユンホさんの家でしょう?温室に連れていってください!」


居ないもののように無視すると決めていたのに。




「花は何も言い返せないんだから、・・・可哀想です!」


父親を亡くしたばかりなのに気丈に振る舞う姿。




「眉間に皺ばかり寄せてると幸せが逃げますよ?」


謙虚で正直な凜とした美しさに。




気づくと視界に入るその存在、・・ありえないと、───なぜか必死で否定した。





「わぁっ!///一面のストロベリーキャンドル!大好きな花なんです。」





──────今思えば、・・・



ほとんど家に居つかず家族に無関心の父親と、従順に頷くだけの母親が唯一喧嘩らしき言い合いをしたのは、俺が小学校を卒業する年だった。



裏庭を潰してテニスコートを作りたい、という母親と。
裏庭の半分を温室にするという父親。



────そうか、主は温室ではなくて、・・。







「あなたの知らないところで、あなたを愛してる人はいるから、・・・一輪でいい、咲かせてください。」




結局、自分を裏切ったのは自分で。
バイトと称しては側にいることを望んだ。
ポツリポツリとうつむき気味に話すから、伏せた睫毛の長さから目を離せずに。
耳慣れない小難しい話より、透き通るような心地いい声をいつまでも聴いていたくて、・・それに包まれて眠る幸せを知ってしまった。







親父と喧嘩して遊びに出た夜。
知り合いの知り合いで名前も思いだせない女に送ってもらって。


「───また会える?2人きりで。」



薄ぼんやりと、───ああ、人工的な睫毛だな、ってことに意識がいって、近づく真っ赤な唇をいつものように惰性で受けいれた。


むせかえるような香水はねっとりと甘く、挿しいれられた舌が執拗に絡みついても、・・急速に冷えていく身体。



「またいつかな。」



適当にながして車を出た。
玄関に向かう途中、最近癖になってしまったあいつの部屋を見上げる習慣。




─────チャンミン?



途端にバクバクと煩い心臓。
乱暴に引かれたカーテンが揺れて、───そして一瞬だけ合った視線。



───見られた?


くそっ、




なぜか湧き上がる後悔。
何に対しての舌打ちだか、・・・
自然に早足になり、気づいたらチャンミンの部屋をノックしていた。




────なぁ、おまえはどうなの?


いつもの事だと、・・気にも止めてない?




開かれたドアの先、少し怒ったようなおまえに、・・ツンと胸を衝かれたような衝撃。
   


そのわけを、・・おまえは教えてくれる?









「─────ユ、ユノのばかっ!」



投げつけられたバスタオルが頬を掠めるように胸元に当たって落ちた。







幼いチャンミンのホタルブクロのエピソード。
少し前、──すごく思い入れのある花なんです。ってふわり笑った顔が忘れられなくて。
懐かしそうに図鑑を眺めるチャンミンを見て、・・・本物を見せたい、と強く思った。



なんども見ていて、手にしたこともあるだろうチャンミンに、
一度も見たことも聞いたこともない俺が───本物を見せたい、とか、・・可笑しな話だ、と苦笑いが漏れる。





それを、────なに?
親父に先に話したんだ?




それだけの事に、・・いや、それだけじゃない、・・・カッと頭に血が上り、ひどく陰湿な俺が顔をだす。





──────こんな激情は知らない。





俺だけのものだと思っていた、───チャンミンの植物への愛情溢れる話も、亡くした父親との良き思い出話も。










「─────悪かった。・・もう二度と嫌がることはしない。」



それは、本当。


いつも食いしん坊の、幸せを詰めたように膨らむ頬がショックに歪んで。
くるくると人懐っこい瞳には怯えしか映さない。




そんな顔をさせたいわけじゃない。
ただ隣で笑っていて欲しかった。




────出来ることなら、・・俺だけの隣で。







しんしんと降り積もった雪が溶けきらず、やがて根雪になるように 。
・・・想いだけが募る。






先の約束できない未来、───この想いはタブーだ、・・と。
何度も自分に言い聞かせたはずなのに。






「どうようもなく、・・おまえを、・・愛してる。」





遂に溢れた言葉はなによりも真実だった。








「父さん、・・あなたは自己犠牲をすべて人のせいにして生きている。
───俺は、あなたのような生き方はしません。」



それはいつか俺が吐いた言葉。
今さらにゆっくりと噛み砕いて理解していく。




────俺に出来ることは?





抗えない運命なんて、・・糞くらえだ、と。
未来へ続く途でなんどもぶち当たる選択肢。
何よりも先に掴み取りたいのは、・・・チャンミン、おまえだけ。




誰のせいでもない自分の途に覚悟を決める。


────その先におまえの笑顔があればいいと願う。








「・・・いつも見てます。大好き。」





───チャンミナ、・・愛してる・・・











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いつもありがとうございます♪
いきなりのユノsideでした^^;


明日はアメンバー限定記事になります。

そういう事しちゃってるので、苦手な方は避けてくださいね(//∇//)