~チャンミンside~
「手荷物はあれだけ?」
部屋の隅、そっと置かれたボストンバック。
「他の荷物は学生寮へ送っちゃいましたから。」
明日僕はアメリカへと出発する。
いつもよりかなり無理して帰宅したであろうユノが、
────今日だけは、と
周りをすべてシャットアウトして僕の部屋に閉じこもる。
僕の部屋で食事を摂り、僕の部屋のシャワーを使い、僕の部屋でくつろぐユノ。
そんな日常的な風景を寄り添うように2人、残された時間を惜しむまま離れようとしなかった。
「年内は今の仕事の引き継ぎと新事業の準備でボストンとこちらを行ったりきたりになると思う。
年明けに正式な辞令が出て、晴れてボストン支社勤務だ。」
ソファーに座る僕の隣からスッと腕が伸びてきて、そのまま覆い被さるように僕の背中がそこへ沈んだ。
「ある程度の見通しが立つまでは、がむしゃらにやるって決めてるから。
会えないかもしれないけど、・・半年間は同じ土地の空気が吸えるな。」
ニッと笑うその顔が恨めしい。
MITからボストンなんて車で10分ほどの距離だ。
どうせ会えないなら遙か遠く海を隔ててくれた方がどんなにか。
「なに?チャンミナ。」
めずらしく不機嫌な空気を悟ったユノが僕の顎をくいっとひく。
「───べつに。」
ああ、こんな態度とりたくないのに。
意地悪なユノがいけない。
嘘でも会いに行くよ、と言ってくれたらいいのに。
額同士をコツンと当てて。
「・・顔、熱い。やっぱ怒ってるな?」
とかってなんだか嬉しそうなのも気にくわない。
「俺の右腕になるんだろ?おまえもがむしゃらに勉強して追っかけてこい。」
───分かってるよ、ユノ。
揺るぎない背中を見据えて確かな目標が出来た。
それだけで僕はいくらでも頑張れる、・・はずなんだけど・・・
「────愛してる、・・ユノ。」
今は、・・今だけはちょっと無理。
震えるように口をついたセリフ。
くしゃっと綻ばせた顔。
やっぱり片方の口角だけがあがって、
「おまえ、・・仕事中の俺はこんなに甘くないからな。」なんて言って、深い口づけをくれる。
何度も角度をかえて重なった唇はじんわりと温かく、呼吸を忘れるほどに夢中になった。
「ハァ、・・温かい、・・ユノ、・・。」
「ん、・・一生側にいるための、・・たった数年間だよ、チャンミン。」
先日のおじさんとの会話を、
少しだけ話した後のユノの表情が忘れられない。
「────望むところだ。」
ニィ、っと、口元は笑っているのにギラギラと挑戦的な目。
激しい鼓動が伝わるほどの確かな決意。
───父さん、
あなたのヒョンの息子も一緒だよ。
こんなにも強くて、尊敬できるんだ。
「・・ユノ、・・ユ、・・ノ、・・。」
何度も何度もなまえを呼ぶ僕に、そのたび唇を肌に重ねて吸い上げる。
貴方のなまえを紡いだ数だけ僕に残された貴方のしるし。
この痕はいつかは消えてしまうけれど、・・この感触だけはずっと忘れない、・・・
翌日は大事な会議があると聞いていたのに、結局我慢できず狂おしいほどにお互いを求めた夜。
「愛してる、・・・チャンミナ。」
貴方が動くたび、涙とともに愛しさが溢れる。
「ユノ、・・・愛してる・・・。」
貴方自身を僕が包んで、その温かさに細める瞳の中に、───いつまでも僕を映してほしくて、
力強く打ちつけられるたび、その熱さや質感や匂いまで忘れないでおこうと思う。
「─────愛してる。」
翌日の気怠い朝、────。
どんなに後ろ髪を引かれようとも時間は待ってくれない。
「───じゃ、・・またな。」
わざとあっさり別れを告げるユノ。
「うん、・・またね。」
そして僕もあっさりと。
僕は朝ゆっくりめの便だけど、ユノは早朝から会議だから。
────ここでお別れ。
着替えに戻るユノの背中をぼんやりと眺める。
会おうと思えばいつでも会えた、この屋敷での心休まる時間も、───
朝、早起きして貴方の出勤を待ち伏せした甘酸っぱい瞬間も、───
2人を分かつドアが閉まるのを見たくなくて、朝日が燦々と降りそそぐ窓辺へと足をすすめた、─────とき。
「っわぁ!////」
毛足の長い絨毯にすいこまれる足音を気づいた瞬間、背後から抱きこまれた衝撃で反り返る背。
「痛っ、」って言葉がユノの唇に飲みこまれる。
背後からの無理やりな体勢に首筋がピキピキ鳴ってるけれど、
「絶対、浮気はするな。」
「飯食って勉強する以外のことはするな。」
「俺以外のヤツに笑いかけるな。」
どんどんエスカレートする無茶な要求に、振り向きざまその頬を思いきり摘まんでやった。
「・・痛ってぇ!」
「バッカじゃないですか?///
最後の最後にくだらないこと言うな!」
少し赤らんだ頬をスリスリとさすりながら、痛そうなのになぜか嬉しそうなユノ。
「嘘、・・・別に好きにしたらいい。
でも、・・これは本音。」
───なんて、・・この人は僕をどうしたいんだろう。
愛おしすぎて胸が痛い、────
今日は泣かないって決めていたのに。
声と一緒に零れてしまいそうで、───うまく言えない。
そっとひとつキスをおとして、貴方に最上級の微笑みを贈る、
──────愛してる、とだけ。
─────5年後
~ジフンside~
「イ・ジフンです。
こちらへは技術サポートとして配属されました。大学で原子核工学を専攻し、入社当初からの配属希望が3年目でやっと叶いました。宜しくお願いします!」
僕はわくわくしていた。
だからなのか、興奮と緊張の赴くままつい真っ先に足が向いてしまった。
「あ、ああ。・・よろしく、ってか支社長に先に挨拶した?」
目の前でネクタイに指をかけクイッと緩める仕草さえ絵になるイケメン、───
チョン・ユンホチーフへと。
「あ、まだです。チョン・ユンホ環境エネルギー事業部チーフ。」
「ふっ、なんだ?その長ったらしい呼び名は。」
可笑しそうに笑った顔が、男の自分でさえ見惚れてしまうほどの格好良さで。
────噂以上だ、と。
元々、本社社長の跡取り息子というだけで社長の次に有名人なのだけど。
5年前までお荷物的存在だったこのボストン支社をまず内部改革に着手し、今や飛ぶ鳥を落とす勢いで前年比経常利益を上げている太陽光発電事業を誘致した立役者なのだ。
4年前、太陽光発電事業への参入をメディアに向けて発表した際の堂々とした話しっぷりに惚れて入社すると決めた。
あの記者会見はこのチョンチーフのビジュアルの方が話題になって、女子社員募集枠の競争率を天文学的数字にしたという伝説になっているのはどうでもいい話だけど。
「ちょうど俺も用事があるから、一緒に行くか。」
スッと席を立ったらその顔の小ささから等身を裏切る背の高さで、・・隣で歩くのが少し憚られるくらい。
「あ、はい。ありがとうございます!」
その広い背中を見ながら、・・・考えていた。
あの衝撃的な噂は、───本当なのだろうか、と。
「ジフンは直接俺の下についてもらうことになると思う。一緒にコンビを組んでもらうヤツが、・・今、ちょっと外に出てて。」
「ってか、アイツ・・・クライアントのおっさんを見送るだけで何そんなに時間くってんだよ。」
ひとりでブツブツ言い始めた人をそっと盗み見る。
突然思いだしたように苛々しだした意味が分からないけど。
「僕よりひとつ下のとても優秀な人だと聞いてます。MITで環境経済学を学んで、大学も首席で卒業したとか。」
「ああ、まぁな。・・手ぇ、出すなよ?」
えっ?男って聞いてましたけど?と思いつつ。
────はっ、と今さら気づく。
チョンチーフが近々結婚するらしい。
しかも相手は男だと。
────もしや、という気持ちと、まさか、という気持ち。
このどんな女性も選び放題のビジュアルと家柄を持つ人が?
信じられない!
男だぞ?
有り得るか?
有り得ないだろ。
そしてそんな僕の固定観念はあっという間に覆されることになる。
「す、すみません、遅くなりました。あの部長、ほんと・・しつこいっ、・・って、あ・・/////。」
独り言のつもりだったのだろうが、運悪くドアを開けた先、───目の前にはチョンチーフ。
「チャンミナ~~~ッ!」
事情を知らない僕でもすぐ気づく独占欲丸出しのいい様に。
「しぃっ!」と人差し指を口元に持っていく仕草。
こちらもチョンチーフに負けず劣らずの顔の小ささと長身。
そこに乗っかる驚くほど整った容姿。
どちらかというと中性的なのはその睫毛バシバシの大きな瞳のせいか、しなやかで華奢な体つきのせいなのか。
「・・今日から配属された、イ・ジフンさんですね?はじめまして、シム・チャンミンです。」
そう言って恥ずかしそうに笑った顔がめちゃくちゃ可愛くて、・・・
あー、チョンチーフに睨まれてるよ、と気づきながらも目が離せない。
「おいっ!行くぞ!」と足早に歩きだした人の後を急いで追いかけて、
「手、出すなよ!」とまた念を押される。
並んで立つだけで空気まで色をつけるような2人に。
────見せつけられ、振りまわされ、・・あげく放置されるのは、もう少し先の話。
fin.
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無事、完結しました(〃'▽'〃)♪♪
後半、突然降ってわいたようにジフンとかいうヤツが現れまして。
お~、書きやすい~♪と、最初の予定とはまた違う終わり方をしました。
コメントくださる方、いいね!で応援してくださる方のおかげで以前書いたStrawberryCandleをまったく違うお話に上書きすることが出来ましたよ♪
ありがとうございました(*^^*)
最近のリアルほみんちゃんは本当に仲良しで、見てるこちらが「ありがとうございます(//∇//)」とお礼を言いたいくらいですね。
あっという間の東方神起にまみれた1年でした^^;←来年も、・・ずっとずっと追いかけてると思う、私。
狭く深く、な人なので、きっと浮気せずちょこちょこ妄想してるかな?σ(^_^;
では、良いお年を!