~チャンミンside~
「あと一週間もないなんて、・・寂しくなるねぇ。」
またいつもの小部屋。
クッキー焼いたよ、って内線電話もらっちゃったら焼きたての為にダッシュするしかない。
そんな感じで珈琲とまだ熱いくらいのクッキーを頬張っていたら、隣のスヒさんがため息とともに呟いた。
「10ヶ月なんてすぐですよ?」
ニッコリ笑ったら、ちょっと意地悪そうな顔して、「寂しいと言えば、・・あんた、ユンホ坊ちゃんとのこと教えてくれないなんて寂しいじゃないか!」とか言う。
何のこと言ってんのか分からない。
黙ったままキョトンとしてる僕に。
「結婚するんだって?」
────っ!!!!/////////
「前はあんなこと言っちゃったけど、・・はぁ、・・まさか本当にチョン家の後継ぎと結婚するとはねぇ。」
「え?///・・や、・・っちが、////。」
しどろもどろの僕に、・・本当にスヒさんは意地悪だ。
「この前はホタルの前でチュウしてたしねぇ~。」
「はぁ?////み、み、見てっ?//////」
恥ずかしくてクラクラしてきたのに、どうにも止まらないスヒさん。
「少し離れてただけなのに、ちょっと見えないと思って勝手なことしてたよねぇ。」
「ユンホ坊ちゃんのチュウは結構しつこいねぇ。無口な男ってああなのかしら?」
「でっかい男2人のシルエットが月明かりでひとつになってるのは結構迫力あったよ。年甲斐もなくドキドキしちゃったわ。」
「っわ~~~~~~~~っ////////!!」
とっさに両手で耳を塞いだ。
これ以上は聞いてられないっ!/////
クスクスと肩を揺らしながら、愛おしそうに僕の頬を撫でる手。
屋敷にきてすぐ、心細い僕をずっと見守ってくれた優しい手。
「ふふ、早く帰っておいで?そしてまたスコーンを焼こう。ユンホ坊ちゃんの好物をあんた1人でも焼けるように練習しよう。私はいつでもここにいるからね。」
───そんなこと、・・そんな優しい目をして言われたら泣けてしまいそう。
「・・スヒさん、・・大好きです。」
大好きな、僕のもうひとりの母のような人。
ノックの音にドアを開けてからユノが出張中だと気づいた。
「───ヨンジンおじさん。」
「ちょっと、・・いいかい?」
奥のソファーへといざなうのを、ここで、とそれ以上は入ろうとしなかった。
「嫌かもしれないが、・・困ったとき用に、御守りだと思って持っていきなさい。」
それは、僕名義のカードだった。
困ったように首を振ったけど、ギュッと僕の手を取り握らされる。
「チャンミン。・・君が留学を希望していたと知って、行かせてやりたいと思ったのは事実だ。
でも何より、・・ユンホの、・・君を見る目が怖かった。
あのとんがった奴が、君の側でどんどん穏やかになっていくのに不安しかなかった。」
「それは昔、・・どこかで見た光景だったからね。」
ふと見つめた人こそ穏やかな表情で、何もかも納得してるように思えた。
「───君のお父さんは、・・幸せだったかい?」
「え?」
突然の問いかけに、その人の手に包まれたままの僕の手がピクリと跳ねる。
「いや、・・君がこんな素直に真っ直ぐ育ったんだ。幸せだったに違いないな。」
スッと離れかけた手を今度は僕がギュッと掴んだ。
「父さんは、僕のことをとても愛してくれたし、母さんのことも大切にしてました。」
「でもずっと不思議だったんです。時折、何かから逃れるように研究に没頭したり、急に海外へ行っちゃって暫く戻ってこなかったり。」
「・・酔うと貴方の写真を見せてくれて、・・学生時代の親友なんだ、って。年も家柄も違うし、性格なんて正反対だけど、・・とても強い人で、尊敬してるんだ、って。」
「───父も、貴方と同じ、・・苦しんでいたんですね。」
今さら言っても困らせるだけだと分かっているのに言わずにはいられなかった。
その人が知らない父さんを伝えたかった。
「・・・チャンミン。」
ふわりと微かに触れる程度の抱擁。
少しだけ身体が強張ったのを、「───少しだけ、・・このままで。」と、それはとても切なげで振りほどくなんて出来なかった。
一度だけギュッと力を入れて、あっという間に離れていった人。
合わさった視線が愛おしげに揺れるけど、・・貴方が見てるのはきっと僕じゃないね。
「────本当に、・・似てる。
顔も、声も、・・仕草も、・・残酷なくらい優しいところも。」
自然に伸びた手が僕の頬に触れる瞬間、思わず後ずさった僕に自嘲的な笑みが漏れた。
「───愛想なしで面白みもないあんな男が本当にいいのかい?」
そう言った顔は、さっきまでの思いつめた表情ではなく、ちょっとおどけた感じ。
「───おじさんの息子です、よ?」
僕もクスッと笑った。
ふぅ、と息を吐き、───でも、チャンミン、・・と。
「もしも、・・もし人生をやり直せたとしても、・・私はやはり同じ選択をしたと思う。」
「・・・君は?チャンミン。」
なんて、・・僕はまだ振り返るほど人生を生きてないのに。
「僕、・・ですか?」
ふっと笑って、「僕の人生を変えてユノに出逢わせたのは貴方ですよ?おじさん。」って言ったら、今さら気づいたようにおじさんも笑った。
「娘のジヘもいるし、なにより私はまだ若い。仕事も恋愛も当分現役でいけるよ?」
「いわゆるノーマルな途を外れた君たちの行く末を見届けるのもいいかもしれない。」
それは蔑んだ言いようではなく、淡々と。
「それでも後継ぎはユンホだ。
あいつにはそれだけの能力があるからな。
いずれ会社のトップに座り、いざ後継者選びとなった時にどうするか。
存分に悩めばいい。」
不安そうに見る僕に気づいて、ニッコリと微笑む。
「もしこの先、悩んで傷つけあって2人の途が離れることがあったら、────
その時は私のところへおいで?」
───冗談なのか本気なのか。
まるで読めないその人に。
「それは、・・一生ないです。」とだけ。
これだけは目を逸らさずに、
─────ユノの生きたい途が僕の生きる途だと胸を張って云えるから。
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今度はBelieve in U♪
StrawberryCandleも次回で完結です!
長々とおつき合いありがとうございました。
最後の方はchandelierが私の脳内をエンドレスでめぐってましたよぅ♪
明日の最終話はキリ良く年内に、という事で長いです^^;
いつも妄想のみで書きなぐってる私が、今回は本当に色々と調べたり、丁寧に書いたつもりでしてσ(^_^;
かなり思い入れの強い作品になりました。
みなさんの、いいね!のひとつひとつがとても嬉しくテンションあがります!
また暫く更新はお休みします。
たま~~に、覗いてやってください。
ありがとうございました(*^^*)
えりんぎ☆☆☆