先週水曜日にスタートしたオリエンテーションの一環でHDB (Housing Development Board) 見学に行きました。

日本の公団、公営住宅のようなものですが、シンガポール国民のなんと86%がこの「団地」に居を構えています。シンガポールが独立して間もなく、都市の開発とスラム化を防ぐため、また国民に安心、安全な住まいを供給することを目的に開発がスタートされたとのこと。

高層マンション群はシンガポール郊外のごく一般的な風景であります。
ごぐごく限られたリッチ層が戸建住宅や民間デベロッパーが開発したコンドミニアムに住んでおり、また貧困層には公営の賃貸アパートがあてがわれているとのこと。

さてこのHDB、日本人から見ると無味乾燥な団地群が延々と続き、色こそカラフルなものの、強制収容所、ゲットーのような雰囲気もあるよなーと個人的には感じました。
ただ、最近は、民間業者との競争もあり、また若者のし好の多様性から新築HDBは随分モダンな作りに変わりつつあるとか。

Singapore Diary-HDB


シンガポール政府は、この住宅政策を「政治の安定と経済発展の礎」として捉えているようで、斜めからみて見ると、住む所を与える引き換えに与党の絶対指示を国民に半ば強制しているような仕組みになっています。

いくつかの特徴を列挙すると。

・賃貸でなく個人所有が認められている。

公営住宅ですが、賃貸物件でなく、購入物件であります。権利は99年。(といっても建国してからまだ44年ですが、、、。)
各地区にHDBのヘッドクオーターがあり、物件の売買、ローンの斡旋がワンストップで実施されていて、さながら日本の都市銀行のカウンターのようで、非常に効率的。
賃貸でなく個人資産とすることで、国民に資産を保有させ、これを経済的なバックグラウンドとさせることが可能です。(=保有する満足感、安心感)

・年金制度の利用
購入の頭金には年金を利用することが出来ます。強制加入の年金ですから、みなこれを頭金にローンを組むことが可能なのです。
また高齢者にはリバースモーゲージ(死亡時に物件を政府に返還することを条件に融資を受ける)の設定も可能。

・政治との関連
各選挙区(地区)ごとに自治会が運営されており、週末には地区選出の国会議員に対して直接改善要求等訴えられる機会が全国民に設けられています。
これには、住宅の改善要求から、日々の不満、病院や学校への斡旋等様々なものが含まれるとのこと。その見返りに国民は与党支持を求められるとのこと。
何事もトップダウンのシンガポールですから、国会議員への直接陳情が行政を動かす唯一の手段とのこと。

議会の84議席の内、野党がたったの2議席しか確保していないのもうなずけます。
野党選出の地区ではあからさまにHDBの改修が遅れていたり、公共施設の充実が他の地区と差をつけられています。
日本でも有力国会議員のお膝元では田舎なのにやたらと立派な道路やらが整備されていたりしますから、まぁ同じといえば、同じなのですが、国が小さい分、露骨に見えます。



ただ、不思議なことに、市民の多くはこの住宅政策に満足していて、政府与党に対する不満がないとのこと。
確かにシンガポール政府は効率的にそして特定の利益者集団に偏った施策をしてはいなさそうなので、不満は溜まりにくいのかもしれません。逆に言うと小さい国なので、住宅施策については国民一人一人の利害が似通っているということも言えます。
また、「足ることを知りなさい」と政府から指導されているようにも思えますし、マインドコントロールだと言えばそういう部分もあります。



レクチャーで政府組織の説明を受けたのですが、講師もシンガポール人生徒も、外国人の学生からの政府批判的な質問には意識的/無意識的に回答を避けていたのが印象的でした。

建前上、民主主義体制をしいているとされていますが、講義内容から聞く限りにおいては、委員会設置の株式会社の組織と全く同じだなと。そりゃ、他の政府と比べると効率が良いとされるのもうなずけます。

言論の自由が制限されているのは確かなのですが、その代わりに十分といえるくらいの自由、安全、平和、経済発展を与えられているのも確か。

善し悪しの判断は出来かねますが、本当にユニークな国であります。

しかしながら建国してまだ50年にも満たない新米国家。日本の株式会社の平均寿命が30年といわれるくらいですから、それを少し超えた程度です。
初代指導者のリークアンユー顧問相もまだ健在ですし。子息のリーシェンロンが今は首相を務め指揮をとっています。

では、次世代のリーダーは???

シンガポール人にとってもこれが一番の将来の不安のようです。