「千歳君、来てるよ」
帰ったとたん祖母にそう言われ、思わず二階を見上げた。
「何しに?」
「知らないよ。早く行きなさい、ずいぶん長い時間待ってるから」
私は駆け上がっていきたいのか、回れ右をして外へ逃げたしたいのか自分でも分からないまま、のろのろと階段を昇った。
千歳は床に座って、ベッドにもたれて眠っていた。眉尻を下げた無心な寝顔を見ていると、どうしようもなく愛おしくなってしまう。私が抱きしめるのが、この人であったならばよかったのに。
小さく深呼吸をしてから、枕で千歳の頭を叩いた。
「女子高生の部屋で、なにしてるのよ」
千歳はゆっくりと目を開けると、まだ半分寝ているような掠れた声でおかえり、と言った。
「何しに来たの」
「特に用事はないけど。最近、春海見てないなって思って」
そう言ってちょっと笑った。
「久しぶり」
「…それだけ?」
「もうそろそろ学園祭だろ。今年も忙しいのか?」
私の不機嫌な声を無視して千歳は続けた。
「あたりまえでしょ」
「あいつは使い物になってるのか?なんだっけ、女たらしの役立たず」
「香篠君のこと?」
教科書を片付けるために、否、千歳に背を向けるために机の方を向いた。そして、一瞬目を閉じる。
「付き合ってるんだ」
「…は?」
「付き合ってるの、香篠君と」
平静さを欠いた千歳の声で逆に私は冷静さを取り戻して、笑顔で振り向いた。
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