better than better 36 | better than better

better than better

彼は、私の死んだママのことが忘れられない。
一方通行の片思いたち


素人小説です

「付き合えって言ったの、千歳じゃない」

千歳は苦笑して髪を掻いた。

「そうだったな。初めての彼氏だろ?おめでとう。寿子さんたちは知ってるのか?」

私は首を横に振った。

「恥ずかしくって」

「そうか」

あっという間に普段と同じような表情を浮かべて祝福する千歳に、再び腹が立ってくる。

「でも、どうしようかな。今日旅行行こうって誘われちゃったし」

結局その件はうやむやになってしまったことは伏せて言うと、千歳の瞳が一瞬大きくなる。

「友達にアリバイ頼もうかな。正直に話してもおじいちゃんが許すわけないし」

「当たり前だろ。俺だって許さないよ」

「どうして?」

クラスでも派手な子たちをイメージして言い放つ。まるでセックスとか、そういうものに慣れ切っているかのように。

「どうしてって…」

千歳は絶句して私を凝視した。

「説教するなら、帰ってよ」

千歳は私の心の中を見透かそうとするような目をしたけれど、私は全然動揺しなかった。

 ふいっと千歳は目を伏せて立ち上がった。

「おじいちゃんたちに言いつけないでよ。そんなことしたら、千歳が高校生の時からタバコ吸ってたこと、鈴子さんにチクるよ」

ドアノブに手をかけた千歳に言うと、彼はドアを開けようとする動きを止めて、ゆっくりと部屋の中へ戻ってきた。有無を言わせない態度で私の左肩を掴み、そして軽く腰をかがめて首をかしげる。

 はっきりとした予感があったにもかかわらず、唇が重ねられた途端に思わず身を引いた。けれど、思いがけない千歳の力の強さが、離れることを許さなかった。きつく目を閉じる。乾いているのに、濡れたくちびる。

「タバコは、もう吸ってない」

低い声でそう言って、千歳は手を離した。

「嘘、つくなよ」

そう言い残して部屋を出て行く千歳に、今度は何も声をかけることはできなかった。

 階下で祖母と話す千歳の声を聞きながら、絶望的な気持ちで唇を人差し指でなぞった。私の反応で、キスでさえ初めてだということを、千歳は悟ったに違いなかった。

 ほんの一瞬だった。手の力強さとは裏腹にそっと重ねられただけの口づけは、子ども同士の無邪気なキスとそれほど変わらない程度のものだった。

 けれど、これから先、このたった一瞬を、何度も繰り返し繰り返し、思い返してしまうのだろう。



※未成年の喫煙は法律で禁止されています


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