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彼は、私の死んだママのことが忘れられない。
一方通行の片思いたち


素人小説です

西並さんは、しまった、という顔をした。

「あいつ、春海ちゃんに言ってないの?」

「言うも何も、本当に最近会ってないんです」

「それが意外なんだよなあ」

背もたれにもたれてこちらをじっと見てくるので、少したじろいだ。

「あの飲み会でも、真野のやつずっと春海ちゃんにべったりだったし」

「そんなことないです。ほっておかれてました」

あの時のことを思い出して腹立たしさが蘇る。あっちに座れば、と押された背中。

「そりゃね、隣にはいなかったかもしれないけど。あいつずっと気にしたよ。あっという間に連れて帰っちゃうし」

残念だったなあ、とちっともそんなこと思ってないように言う。西並さんは、思っていたのとは少し違う人物のようだった。

「そもそも、なんで俺が春海ちゃんに会いたいって言いだしたかって、知ってる?」

面白そうに聞かれる。

「千歳は、写真見て興味持ったらしいって言ってましたけど」

西並さんはくっくと笑った。

「だいぶオブラートに包んでるね?俺が春海ちゃん可愛い可愛いって言ったって知ってるでしょ?」

遠慮がちに頷くと彼はにやりと笑った。

「まあ、そう言って会わせてもらったのは本当だけどね。でもそれは建前っていうか」

春海ちゃんが可愛くないって言ってるんじゃないよ、と一応のフォローをいれながら彼は続ける。

「その写真、俺がどうして見たか知ってる?」

そういえば知らない。千歳がそういうものを人に見せて回るタイプでないことは知っている。私は首を横に振った。

「手帳に挟まってたんだよ」

西並さんは重大な種明かしをするように告げた。

「手帳…」

「そう。偶然見ちゃってさ。春海ちゃんとのツーショットのやつ。真野ってあまり笑ったりしないんだけど、その写真はすごい良い笑顔で映ってるし、そもそも写真とか持ち歩くタイプだと思ってなかったから、興味持っちゃったんだよね。一緒に写ってるこの子は誰なんだ、って」

私も千歳が写真を持ち歩いているなんて知らなかった。しかも自分とのツーショット。自然と顔が熱くなる。

「そんなの、全然知らなかったです。どんな写真ですか?」

彼は少し思い出すような顔をした。

「春海ちゃんが中学入学の時のって言ってたかな。玄関の前で立ってるやつ」

覚えてる?と聞かれたけれど私は答えられなかった。頭の中がぐらぐらする。

 千歳は、私との写真を持ち歩いているわけではなかった。

「え、どうしたの?」

慌てる西並さんの声で、自分が涙を流していることに気が付いたけれど、止めることはできなかった。そのまま声を殺しながら、けれど嗚咽は抑えられずに泣く。その間戸惑いつつも、西並さんは私を周りから守るように、頭を撫でていた。


次話



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